デザインに批判が殺到! 悲運のお札「A10円札」って知ってる?

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現代人の生活に欠かせない「オカネ」。なにが印刷されているのか、しげしげと観察するひとは少ないでしょうが、過去にはデザインが気に入らないと騒ぎになったお札が存在します。1946年に発行された「A10円札」です。戦後初めての千円札を発行しようとしたところ、GHQからあれこれ注文がつき、肖像やデザインを変更してA10円札に生まれ変わらせました。しかし、さんざん苦労して発行したのに、デザインが「米国」の文字をモチーフにしている! などクレームが続出……やがてはGHQの陰謀説まで飛び交った悲運のお札です。

■発行されなかったA1,000円札

戦後に発行された紙幣は、順にA,B,C…が名前の先頭につきます。現在の、福沢諭吉(ふくざわゆきち)が肖像にもちいられている一万円札はE号券やE1万円札と呼ばれます。ひと世代前のD1万円札も福沢諭吉が描かれていますが、なにが変更されたかわかりますか?

終戦を迎えた日本は、激しいインフレに悩まされていました。生活もままならないほど物資が少なく、旧軍人への退職金の支払いなどによって「オカネ」も減り、政府はこの状況を打破するために「新円切り替え」を行いました。1/5/10/100/500/1,000円の6種類をあらたにデザインし、発行準備に取りかかっていたのですが、GHQから思いもよらぬクレームがつきます。高額の紙幣を作るとよけいにインフレが進む、の理由で500円と1,000円札にダメ出しされてしまったのです。ハイパー・インフレの結果「100兆ドル」札まで登場したジンバブエの例もあるので、これは理解できないことでもありません。ところが、GHQからのダメ出しは「肖像」にまでおよび、
 ・A1,000円札 … 伐折羅(ばさら)大将像=「怒り」
 ・A500円札 … 弥勒菩薩(みろくぼさつ)像=「悲しみ」
を表しているとこれらもボツ。金額はおろか、肖像も気に入らない!とイチャモンのような変更要求を突きつけられ、A1,000円札はデザインの大枠だけを残し、A10円札に作り直されることとなりました。

■A10円札は「米国」仕様?

紆余曲折の末、A10円札が世に出たのは1946年3月。「券行銀本日」と印刷された戦後初の紙幣が誕生したのですが、A10円札はすこぶる評判が悪いお札でした。GHQの陰謀だ!と言われるほど、デザインが気に入られなかったのです。

最大の理由は、デザインが「米国」にみえるからで、画像を「遠目」にみると、たしかにそうも解釈できます。これを発端に、
 ・国会議事堂の肖像が、十字架に閉じ込められている
 ・右の「国」は、鎖につながれた「菊」を表している
など言いたい放題……。裏面に描かれた48の花がアメリカの州の数(当時は48州だった)を意味している説も飛び出し、やがてはGHQの陰謀だ!とあらぬウワサまでたちました。

このウワサは本当なのか?を整理すると、
 ・「米」と「国」に見えるデザインは、A1,000円札のときから変わらない
 ・「米」の十字のなかには、もともとは伐折羅(ばさら)大将像が描かれていた
 ・鎖に見える「国」のワクに菊がつながっているのも、A1,000円札と同じ
なので、民間企業がデザインしたとはいえ「いいね!」と採用したのは当時の金融局であり、不評な部分はすべてA1,000円札譲りです。GHQがNGとしたのは「金額」と「肖像」なので、陰謀どころか「濡れぎぬ」にすぎないものでした。

そんな不人気もあってか、A10円札は1955年に発行が終了され、わずか9年でその役目を終えました。肖像に人物が描かれていないことも含め、きわめて特異的なお札なので、もしタンスから出てきたらだいじに保管しておくといいでしょう。

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