【ブラックバイト】夜中まで毎日タダ働き?”学生酷使”の壮絶現場

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教育業界でもブラックバイトが問題に(※写真はイメージです)
教育業界でもブラックバイトが問題に(※写真はイメージです)

 ブラック企業ならぬ“ブラックバイト”という言葉が世間に認知されつつある。今年の6月17日に飲食チェーン「しゃぶしゃぶ温野菜」の運営会社に対して、元アルバイト従業員の学生が、店長に恐喝や殴る、首を絞めるなどの暴行、果ては包丁で胸や腕などを刺すという殺人未遂行為などを受けたとして、民事・刑事両方で告発。労働組合の「ブラックバイトユニオン」を通して発表されて話題を呼ぶなど、もはや食いつぶされる若者は、社会人だけではなくなってきているのが現状だ。

■教育業界でもまん延するブラックバイト

 今回の訴訟において声明を発表した一人で、労働問題に取り組むNPO法人・POSSEが出版する雑誌『POSSE』の編集長にして、ブラックバイトユニオンで労働相談などを行っているという坂倉氏によれば、

「今回ほどの事例はさすがに過去にはありませんが、日常的に店長から殴られる、蹴られる、ミスした分の買取りを迫られるという学生バイトの相談は頻繁にあります。中でもコンビニやスーパー、アパレルと言った小売、ファストフード、ファミレス、居酒屋などの飲食、家庭教師や個別指導塾に代表される教育などの業界で相談が多いですね」

 とのことで、特定の業界内で学生を酷使する環境が作られつつあるのだろう。そんな中、教育業界で酷使された経験がある人物にコンタクトを取ることが出来た。今年とある有名私立大学を卒業したMさんだ。彼は大学生の頃に個人指導塾に務めていたが、そこがかなりのブラックだったという。

「僕が入ったのは大学一年の11月でした。とある教育教材系の大手企業の傘下にある塾だから、安心だと思ったんです。まず塾の方から、『塾講師という仕事の特性上、基本的に年度ごとに面倒を見てもらうよ』って言われて。そこは講師一人に対して生徒が二人付くというタイプの個人指導塾だったんですが、途中で辞められると生徒が浮いちゃうからまずいと。なので、契約期間としてはその11月から、次年度末である翌々年の3月まで辞められないって話になったんですね。やけにあっさり言われたんですが、後で考えるとバイトなのに辞められないというのはおかしいなと思いました」

 とはいえ、Mさんは最初の年度末まではいたって普通の、ストレスの多くないバイト生活を送れたという。だが、4月からはその生活が一変した。

「年度が変わると、バイトの先輩たちが、就職したり院に進んだりして一気に抜けるんですよ。それまでは受験生である中学3年生や高校3年生は1~2人しか担当していなかったんですが、そういう生徒を多く受け持つことになって。結果、それまで担当してした子に加え、受験生をさらに10人近くも担当することになり、1コマ90分の授業を週10コマ以上受け持つすることになったんですね」

 週に900分以上の労働。Mさんによると、時給に換算するとおよそ1000円程度であったという。15時間と考えれば、学生のバイトとして妥当かどうかはともかくとして、それほど無茶苦茶な労働時間には思えないし、時給も塾講師のバイトの相場としてはかなり安いが、それでもブラックだと断ずるほどの材料ではない。しかし、このバイトには、授業以外の部分に大きな闇があったのだという。

「夏期講習や春期講習、夏期講習などの1か月半ほど前に、保護者面談があるんですよ。教室長と担当講師が同伴で保護者と話し合うのですが、それは現在の学習の進み具合から、講習でどのような段取りで学習を行い、講習後にどの程度のレベルに到達する予定かというカリキュラムを保護者の方に報告するんです。そのための書類を生徒の数だけ作るのですが、これがかなりの負担だったんです」

 前述の通り、生徒を十数人抱えていたMさんは、その人数分、一人一人の状況を調べ、受け持つ講義や宿題の内容などを検討し、書類を作成し始めたという。これにより、通常の講義に加え、このカリキュラムの作成を並行して行うことになったMさんは、残業地獄に追い込まれたのだ。

「その時は初めてということもあり、カリキュラム一枚6時間以上の時間がかかりました。そのあとチェックしてもらって、修正まで含めるとさらに数時間。いつも講義が終わるのが21時半なのですが、期限を守るためには、毎日塾が閉まる3時過ぎまで残業をしないと回らなくなってしまったんですね。それで、終わった後に漫画喫茶で始発を待つ毎日になりまして。もちろん、その代金なんか出るわけもありません。そして何より酷いのはが、この書類の作成に関しては、時給制ではなく、一枚1000円という値段だったんですね。6時間以上かけて書類を仕上げ、1000円をもらい、その大半が始発待ちの漫画喫茶代に消える。その後に当然自分の大学の授業があるわけです。もう何をやっているのかわからなくなってましたね、当時は」

 1000円しかもらえない書類を作るために、毎日夜中までほぼタダ働きをしたのちに、自腹で漫画喫茶に泊まり、始発で帰る。さらに大学で今度は自分が勉強する。もはや、バイトの域を超えて、ブラック企業もかくやというハードさだ。そしてその“地獄”を乗り越えた後も、Mさんがバイトに費やす時間は一切減ることはなかった。

「夏期講習では、そこから塾に入る子もいたのでさらに自分の担当が増え、自分のテストの時期とお盆以外は毎日ずっと出ずっぱりで講義に出て、結局6週間で220時間以上の講義を行うことになりました。これに加え、夏期講習から入って来た子はまた面談用の資料を作らねばならず、そのためにまた残業。さすがに夏休みでこちらも時間に融通が利き、終電逃しをするようなことはしませんでしたが、結局交通費も出ないのに休日に塾に来て、そうした講義以外の作業をしてましたね。『ああ、まるでサービス残業してる会社員みたいだな』って思いました。それで夏休みが終わっても担当する生徒は増えたままだし、今度は冬期講習に向けての準備が始まるんです。それで、さらにまた書類作りをするんですが、夏期講習と作る内容同じなのに、期間が短いという理由だけで一枚500円なんですよ。夏期の頃よりは慣れてたのと、講習の時みたいに講義がない日に行くことで、終電逃しは5~6回しかしなかったと思いますが」

 壮絶なスケジュールをなんとか乗り切る方法を見つけたMさんだったが、塾側は彼にさらなる激務を強いてきたのだという。

「夏期の頃の僕みたいな感じで、書類作りに悪戦苦闘する学生バイトが増えたので、塾側も対策を組むことになりまして。本人が無理な分は、経験者がサポートすることになったんですね。それで、何故か僕がその経験者の枠に入っていたんですよ……それもあいまって冬も大晦日と3が日以外はほぼ毎日塾に行くことになりした」

 結局、激務は受験が本格化する2月まで続き、春期講習を行った後にMさんは逃げるようにその塾を辞めたそうだ。

「もちろん、そんな生活をしていたから自分の学業には全く身が入らず、ゼミ以外の授業はほぼ出られないような状態になっていました。そのせいで1年目は留年ギリギリまで単位を落としてしまい、残りの3年で埋め合わせをするのが結構辛かったですね。塾を辞めた後、次の年にまた別の塾で講師としてバイトをしたんですが、そっちはまったく残業が無くて、時給も比べ物にならないほどよかった。一体僕はあの塾に務めていた時、何をしていたのだろうと思いましたよ」

 からくもブラックバイトから逃げおおせ、留年をはじめとした悲劇を回避したMさん。彼は自身の経験を踏まえて、こうしたバイトから逃げる術をこう語った。

「僕もあの頃は、『自分がここで逃げたら周りに迷惑がかかるし、生徒たちはどうなるんだろう』と思って辞められなかったけど、そもそもバイトなのにそんな責任感持つこと自体がおかしいんですよ。やっぱり、自分は所詮バイトなんだってのを常に念頭に置いて、いざとなったら逃げるの上等、ぐらいのつもりでいた方がいいですね。金を稼ぐバイトのために留年したり、病気になったらバカらしいじゃないですか。別に辞めたってバイトなんかすぐ見つかりますからね」

 卒業後の奨学金による生活苦なども問題になる中、こうしたブラックバイトもまた学生たちを追い込んでいく。様々な政党が若者の希望を持てる社会の実現を叫んでいるが、実情はまさに真逆を行きつつあるようだ。

文・阿蘭澄史(あらん・すみし)
※1974年滋賀県出身。フリー記者。某在京スポーツ紙の契約記者を経て、現在は週刊誌等で活躍中。主な著書に『真相!アイドル流出事件簿』(ミリオン出版)、『事務所をクビになった芸能人』(竹書房)、『芸能人のタブー』(宙出版)など。
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