マレーが流した涙、2度目のウィンブルドン・タイトルを「心から誇りに思う」

イギリス・ロンドンで開催された「ウィンブルドン」(6月27日~7月10日)の最終日、男子シングルス決勝。
イギリスが自国出身のウィンブルドン・チャンピオンを77年間待ち続けたあと、アンディ・マレー(イギリス)はかなり矢継ぎ早に2つ目のタイトルをもたらした。
マレーはビッグサーバーのミロシュ・ラオニッチ(カナダ)を相手に素早く反応し、コンパクトなリターンでその猛烈なサービスの効果を鈍らせ、そして果敢なパッシングショットを放ってミスのない印象的なプレーをした。6-4 7-6(3) 7-6(2)のストレートでラオニッチを破り、2013年以来2度目のウィンブルドンの優勝を果たしたのだ。これはマレーにとってグランドスラム大会で3度目の優勝でもある。
試合が終わったあと、マレーはベンチに座って涙を拭いた。
「前回優勝したときの僕は本当に安堵した。とてつもないストレスとプレッシャーを感じていたために、本当の意味で優勝を楽しむチャンスを手にできなかったんだ」とマレー。「だから僕は今夜、間違いなくこの勝利を楽しむようにするよ」。
第2シードのマレーはこれが11度目のグランドスラム決勝だったが、これまでのようにノバク・ジョコビッチ(セルビア)かロジャー・フェデラー(スイス)ではない相手と初めて決勝を戦った。
マレーはこの2週間の大会の間、そのどちらとも対戦する必要はなかった。第6シードのラオニッチが準決勝で5セットの激戦の末フェデラーを倒し、また、3回戦では第28シードのサム・クエリー(アメリカ)がジョコビッチを倒していたからだ。その中からラオニッチがグランドスラム大会の決勝に進出した、初めてのカナダ人男子プレーヤーとなった。
ラオニッチはスピードと威力のあるサービスで一試合平均25本のサービスエースを放ち、決勝まで勝ち上がった。しかし、そよ風の吹く日曜日の午後、約1万5000人の熱心なファンたちで溢れたセンターコートではそれが発揮できなかった。マレーがラオニッチのその必須の部分を抑え込んだのである。
「これは辛い敗戦だ」とラオニッチ。彼はごく最近、チームにウィンブルドンで3度の優勝を誇るジョン・マッケンロー(アメリカ)を招き入れたばかりだった。
イギリスにとっては荒れた数週間だった。国民投票の結果を受けてEUから去ることが決まり、その影響からポンドの価値が下落。センターコートにはウイリアム王子とケイト妃が観戦に訪れ、そこから数席離れたロイヤル・ボックスの前列に座っていたのはデビッド・キャメロン首相だったが、すでに辞任の意を表明している。
マレーはウィンブルドンの期間、ある記者に「イギリスの最後の希望であるというのはどんな感じがするのか?」と尋ねられさえしていたが、彼は顔をしかめながら、「そう悪くはないだろう?」と片付けていた。
コート上で行われた表彰式の間、マレーはトロフィを抱きかかえつつ、こんなジョークを言っている。
「ウィンブルドンの決勝でプレーするというのはタフなことだけれど、僕は首相ではいたくはないな。不可能な(ほど難しい)仕事だ」。
人々が、1934年から1936年にウィンブルドンで優勝したフレッド・ペリー(イギリス)の跡継ぎを切望する中、29歳のスコットランド人のマレーはイギリスで最大の可能性を持つ選手であることについて回る大きな期待に対して、長く対処し続けてこなければならなかった。
だが、この日のマレーのプレーは素晴らしかった。カウンターパンチのようにして返すショット、ディフェンスのうまさ、そして卓越したサービス・リターンでうまく試合をコントロールした。
もともとリターンの名手であるマレーだが、その能力----それは、よいタイミングと器用さのコンビネーションだ----の証拠として、ラオニッチが最初のサービスエースを奪うのに36分と5回のサービスゲームを要したことにも表れている。マレーは繰り返し、ラオニッチが放つビッグサービス、時速237kmものサービスも何とか返球してみせた。おかげでラオニッチのサービスエースは、マレーより1本多いだけの8本に留まった。
ちなみに準決勝でフェデラーとの5セットマッチで、ラオニッチが放ったサービスエースの数は23本だった。
マレーは第1セットで1回だけラオニッチのサービスをブレークして4-3とリードしたが、それで十分だった。というのも残りのタイブレークとなった2つのセットは、驚くほどマレーの一方的なものとなったからだ。ラオニッチは今季に勝ったタイブレークの20回のうち落としたのはわずか6回と、ツアーで一番の数字を手に決勝に進んでいたのだが…。
マレーは最初の2セットでサービスからの65ポイントのうち50ポイントを取り、その間一度もラオニッチにブレークポイントを握らせなかっただけでなく、デュースに持ち込まれることすら一度だけだった。
第3セットの2-2からラオニッチはやっと15-40とブレークポイントを握った。マレーのセカンドサービスに対してフォアハンドのウィナーを放ち、ラオニッチにとって最初の、そして結果的に最後のブレークチャンスだったが、マレーはここで揺るがず、続く4ポイントを連取してキープした。そのときのマレーは、コーチや家族が見守るボックス席に向けて右手の拳を突き上げてみせた。
公式の試合統計によると、マレーのアンフォーストエラーは12本のみで、第2セットはわずか2本だった。
これはやや主観的なことだが、この試合を見て、聞いていた者なら誰であれ、マレーがボールを叩くときのラケットのストリングがボールをパーンと弾く小気味よい音を聞いていたら、どれだけ彼がボールをクリーンに自信を持って打ち抜いていたか、たいていのショットを彼が狙った通りの場所に打っていたかに気づいただろう。
「すごくいいプレーができたよ」とマレー。
彼は昨年と今年の全豪オープン、そして先月の全仏オープンと、3つのグランドスラム大会の決勝ですべてジョコビッチに敗れていた。しかし今回の優勝によってマレーは、1シーズンで3つのグランドスラム大会で準優勝した史上初の男となることを避けることができた。
3つのグランドスラム大会での準優勝は、コーチのイワン・レンドル(アメリカ)がいない時期に起きたことだ。マレーとレンドルは2012年の全米オープンから始まり、マレーはその全米と2013年ウィンブルドンで優勝したが、その後、彼らは一度別れ、先月のグラスコート・シーズン開始時に復縁した。
今回もまた2人のパートナーシップは、ウィンブルドンで効果を生み出した。
「ウィンブルドンは毎年言うまでもなく、僕にとってもっとも重要な大会だ」とマレーは言った。「ふたたびトロフィーを手にできたことを心から誇りに思う」。(C)AP