4倍値上げのガトーショコラが「バカ売れ」するようになった理由
『なぜ、お客様は「そっち」を買いたくなるのか?』(理央周著、実務教育出版)の著者は、コンサルタントや研修講師として多くの企業を見てきたという人物。
そのなかには、毎年過去の業績を上回る収益を上げている企業もあれば、うまくいかずに事業を縮小する企業もあったのだといいます。
そして、数多くの企業を見てきた結果、売れない企業には理由があることを発見したのだそうです。それは、「売ろう」とするから「売れない」ということ。
つまり、お客様も“売るための広告”に慣れているからこそ、「買ってください」と売り込むよりも、お客様のほうから「そんなにいいものならほしい」「行ってみたい」と思ってもらえるようにすることが大切だという考え方です。
ちなみに、成果を出しているお店のオーナーや企業経営者に共通しているのは、「熱心」「素直」「早い」の3つなのだそうです。
知らなかった重要なことを「熱心に」聞き、思い込みや過去の成功体験などにとらわれることなく「素直に」受け止め、市場のスピードやお客様に置いていかれないように「すばやく」動くということ。
そこで本書では、身近な事例をもとにして「なぜ売れるのか?」をマーケティングの考え方によって解説しているわけです。
きょうはそのなかから、ロールケーキの値段についてのクイズをご紹介したいと思います。
■フルーツケーキが売れないとき値下げするべきか?
【クイズ】
ご自分が、都心にあるケーキショップのオーナーパティシエだったとします。
目玉商品としてフルーツロールケーキを開発し、まわりの店の相場と同じく、1本1,500円で売り出しました。
ところがまったく売れなかったため、価格変更を検討しています。
さて、このとき、お求めやすく1,000円に値下げするか、いっそのこと値上げするか、どちらにすべきでしょうか?
この問いへの答えを導き出すにあたって著者は、ファンに愛されるブランドを形成する5つの資産を紹介しています。
(1)ブランドへの「忠誠心」があること
(2)ブランドが「認知」されていること
(3)ブランドが消費者に「価値があると見られている」こと
(4)ブランドのイメージが「れんそう」できること
(5)その他の知的所有権のある無形資産(特許、商標、取引関係など)
この5つの資産があればあるほど、強いブランドになるのだといいます。「認知」されていることは必須の条件で、「見た目の価値」が高ければ買ってもらう理由に直結。ブランドが「連想」されればポジティブなイメージを持ってもらうことができ、「忠誠心」が強ければ長く買ってもらえるというわけです。
顧客はブランドの資産価値が高まれば自信を持って買うことができ、満足度もアップするもの。
企業は高いブランド価値をつくり出すことができれば、徐々に広告を出さなくてもよくなり、効率よくマーケティング活動ができるということです。
■4倍に値上げしてから売れはじめたガトーショコラ
そして、ここで引き合いに出されているのが、東京・新宿のガトーショコラ専門店「ケンズカフェ東京」。
オーナーシェフである氏家健治氏の著書『1つ3000円のガトーショコラが飛ぶように売れるワケ』によると、このガトーショコラの価格は次のように変遷しているのだそうです。
500グラム1,300円で販売
↓
半分の250グラムにして1,500円に値上げ
↓
250グラムで2,000円に値上げ
↓
250グラムで3,000円に値上げ
最初とくらべると半分のサイズになっているので、実質約4倍の値上げ。それでも、3,000円に値上げしてからは飛ぶように売れているのだとか。
当然のことながら、ただ価格を上げるだけではなく、素材やレシピを含めた味を最高級のものにするための努力をしていることが大前提ですが。
■自分だけの製品をブランド化することで利益を得る
どちらかといえば、ビジネスの調子が落ちるとすぐに値下げして、買いやすさをアピールしようというのが一般的な考え方かもしれません。
しかし「戦略なき値下げ」をすると、営業利益と「見た目の価値」が同時に落ちてしまうことに。
ケンズカフェ東京の例でいえば、お客様にとっては1,500円のガトーショコラよりも3,000円のガトーショコラのほうが「ありがたみ」があり、よりおいしく感じられるということ。
もちろん、必ずしも高価格に設定することが正しいわけではないでしょう。ただし、「ライバルよりも安ければより多く売れる商品」とは、どこでも買えて、独自化されていない製品やサービスだけ。
少なくとも中小企業や個人事業主がすべきことは、自分だけにしかできない質の高い製品をブランド化することによって価格を設定し、十分な利益を確保することだといいます。
よって、この問題の正解は「いっそのこと値上げする」になるわけです。
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このように身近な話題を題材にしているだけに、マーケティングの本質を無理なく理解できるはず。「売り方」で悩んでいる人には、特にオススメです。
(文/作家、書評家・印南敦史)
【参考】
※理央周(2016)『なぜ、お客様は「そっち」を買いたくなるのか?』実務教育出版