おじぎは15度深く!ミステリーショッパーが明かす良質な接客術
「覆面調査員(ミステリーショッパー)」とは、お店のサービスを総合的に評価する役割の人。
一般客を装ってお店を利用し、数多くのチェックリストにもとづいてお店の清潔度、接客態度、商品やサービスの質、雰囲気などを評価し、最終的な結果を各店舗にフィードバックするわけです。
そしてタイトルからもわかるとおり、『日本一の覆面調査員(ミステリーショッパー)が明かす100点接客術』(本多正克著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の著者は覆面調査の第一人者。
飲食店、小売店、サービス会社などから幅広く依頼を受けており、「調査したことのない業界はない」といえるほどだといいます。
つまり本書ではそうした実績を軸として、「感じがいい」といわれる接客術を紹介しているのです。
■評価は働いている年数に比例しない
著者は本書で、あるスーパーで覆面調査を行ったときのことを明かしています。
そのお店で働いている人は、正社員はもちろん、アルバイト歴数十年の方、はじめたばかりの高校生までさまざま。しかし何度か調査を行っているうち、おもしろいことに気づいたというのです。
それは、お客様からの評価が、働いている年数に比例しないということ。経験が浅くても評価の高い人もいれば、長年やっていても評価の低い人もいたということです。
■たった15度のおじぎで差が出る!
もちろん仕事についていえば、長年やっている人のほうが高いレベルのことができるでしょう。
とはいえお客様の満足度は、長年やっているからといって必ずしも高いとは限りません。
たとえばお客様は、働きはじめてまだ5カ月の高校生アルバイトに高い評価を与え、7年もやっているベテランに低い評価を与えたそうなのです。
なぜ、そのようなことになったのでしょうか?
著者によれば、それは「たった15度のおじぎの差」。
アルバイト5カ月目のスタッフは、レジでひとりひとりのお客様に「いらっしゃいませ」「ありがとうございました」といいながら、ていねいにあいさつとおじぎをしていたのだといいます。
まだ5カ月目で、自分は未熟な点が多いと自覚していたために、一生懸命だったのだろうと著者は分析しています。
一方、経験の長いスタッフは、お客様と目を合わせることなく、あいさつも頭だけペコリと下げる程度だったのだとか。
■お客様は頭の下げ方にも敏感である
お客様のなかには、だらだらと作業されるのを嫌う方もいらっしゃるもの。しかし、単にスピードが速ければいいということでもないはず。
あいさつもなく、商品を乱暴に入れられたのでは、やはりいい気持ちはしないからです。
つまり、頭だけペコリと下げる人と、ていねいに頭を下げる人なら、後者のほうがよい印象を与えるのは明らか。
お客様は、頭の下げ方をも敏感に感じ取っているもの。だからこそ、たった15度のおじぎの差は、想像以上に大きいということです。
■もう15度だけおじぎを深くすべし
そこで著者は読者に対し、「自分の仕事を振り返ってみて、なんとなくあいさつをしていませんか?」と問いかけています。
いうまでもなく、もし「とりあえずのあいさつ」になっていたり、あるいは頭を下げずに声だけであいさつをしたり、逆に、頭だけをペコリと下げるだけだったりするのであれば、とても損をしているということになります。
だからもう15度だけ、おじぎを深くしてみることが大切だというのです。
なお別の側面から見てみても、あいさつというのは、「自分ではやっているつもり」というケースがよく見られるのだそうです。
たとえばあるレストランで著者が接客教育を行っていたとき、ひとりの若い男性スタッフが、ほとんどおじぎをしていないことに気づいたのだそうです。
ところが、そのことを指摘しても、本人にはまったく自覚がなかったというのです。
そこで仕事の様子をビデオで撮影し、本人に見てもらったところ、自分ではおじぎをしているつもりだった彼は、自分の仕事の様子を見てとても驚いていたとか。
そして自分の姿を客観的に見ることで、ようやく自分のおじぎの仕方がよくなかったことを自覚し、「もう15度深く頭を下げるように」という言葉の意味を理解してくれたのだといいます。
■おじぎをセルフチェックしてみよう
そんな経験があるからこそ、普段の仕事の様子を客観的に見てみることが重要だと著者は主張します。
方法は簡単。
スマートフォンなどで動画を撮ってもらい、それをチェックすれば、普段どのようなおじぎをしているかを客観的に見ることができるわけです。
「たった15度の差」だと思うかもしれませんが、その差が満足度の大きな差として表れてくるもの。著者はそう断言します。
ちょっとしたおじぎの違いでそこまで印象が変わってしまうのですから、意識して取り組むべきかもしれません。
*
ミステリーショッパーとしての自身の経験をベースとしているだけに、本書での著者の接客に対する考え方には強い説得力があります。人と接する仕事についている人は、目を通してみるべきだと思います。
(文/作家、書評家・印南敦史)
【参考】
※本多正克(2016)『日本一の覆面調査員(ミステリーショッパー)が明かす100点接客術』ディスカヴァー・トゥエンティワン