有名奨学金制度「フルブライト」って一体どんな制度?

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奨学金、その制度の在り方について日本でも近年議論が盛んです。奨学金、その制度といえば「フルブライト」が世界的に最も有名ですね。世界でも著名な人々がフルブライト奨学金制度を利用してきました。しかし、フルブライト奨学金制度について、名前は聞いたことがあってもくわしく知っている人は少ないのではないでしょうか? 今回は、フルブライト奨学金制度についてご紹介します。

■コミュニケーション不足が決定的な亀裂を生む!

給付型の奨学金を提供する奨学制度として有名な「フルブライト」は、 J・ ウィリアム・フルブライト上院議員の提唱した「フルブライト教育交流計画」が米国議会に承認され、1946年に発足したことに始まります。

フルブライト奨学金制度の根幹は、

・外国の若者がアメリカで学ぶ援助をすること
・アメリカの若者が外国で学ぶ援助をすること

です。いわばアメリカとの相互留学生のための資金援助を行っているわけで、ここが他の奨学制度と大きく異なっています。

これは、提唱者のフルブライト上院議員の信念から出ています。1946年は、第二次世界大戦が終結した直後。広島、長崎への原爆投下による災禍を知ったフルブライト上院議員は、国民間の相互理解こそが決定的な亀裂を防ぐのだ、という信念に思い至ったのです。

彼は、アルバート・アインシュタインが、原爆投下直後に言った以下の言葉を好んで引用したそうです。

「今や、全てが変わってしまった。われわれの思考方法を除いては。われわれは比較にならないほどの破局に向かって流されつつある。人類が生き残りたいのなら、本質的に全く新しい思考方法を必要とするだろう」(『もうひとつの日米関係』P.14より引用)

フルブライト上院議員は、国同士の交流関係よりも、国民同士の交流関係、その相互理解こそが「新しい思考方法」であると捉えたのでしょう。「フルブライト教育交流計画」は、「教育・文化交流という方法によるアメリカ国民と他国民との間の相互理解の増進」を高く掲げ、現在もその理念を貫いているのです。

■日本人フルブライターは6,400人を超える!

発足当時は、アメリカ政府の資金によって運営され、わずか数カ国との間で始まった国際教育交流奨学制度でしたが、現在ではアライアンスを結んでいるのは160カ国以上に達し、これまでに37万人もの奨学生を援助した実績を持っています。

さて日本です。1951年に日米政府間でこの教育交流計画を実地するための覚書が交わされ、1952年に米国政府資金によって在日合衆国教育委員会が日本に設立されました。

その後、1979年に日本政府は運営資金を米国政府と折半することを決定し、同事業を継承する形で同年12月24日に日米教育委員会が設立されました。 現在までに、フルブライト奨学生(フルブライターと呼びます)となった日本人は6,400人を超えます。

フルブライターの中には、ノーベル賞を受賞した利根川進博士や小柴昌俊博士、国連事務次長を務めた明石康さんなど世界でも注目される人物が多く、挙げ始めればきりがないほどです。フルブライト奨学金制度が有名で、フルブライターが優秀であるとされるのは、このような先人たちの活躍が世界中で知られているからです。

フルブライト上院議員がまいた種は日本でも大きく育ち、無数の花を咲かせながら今もその幹は成長し続けています。

■フルブライト奨学金制度の中身 非常に手厚い制度!

現在、日本人向けに募集しているフルブライト奨学金制度のプログラムは主に以下の4つです。奨学金は全て給付型で、返済義務のある貸与型ではありません。

1.大学院留学プログラム

Graduate Study
給付期間:原則12カ月※
給付によってカバーされる費用

・往復渡航旅費
・往復荷物手当
・滞在費
・住居手当
・家族手当
・図書費
・着後雑費
・授業料(上限4万ドル)

※2年目については、授業料・生活費全て含めて上限2万5,000ドルの更新の可能性あり。ただし3年目の更新はなし。更新は、学業成績、財政援助の必要度および委員会の資金により決定され、自動更新ではない。

2.大学院博士論文研究プログラム

Doctoral Dissertation Research
給付期間:6-10カ月
給付によってカバーされる費用

・往復渡航旅費
・往復荷物手当
・滞在費
・住居手当
・家族手当
・図書費
・着後雑費

3.研究員プログラム

Research
給付期間:3-9カ月
給付によってカバーされる費用

・往復渡航旅費
・往復荷物手当
・滞在費
・住居手当
・家族手当
・研究費
・着後雑費

4.ジャーナリストプログラム

Journalist
給付期間:3-9カ月
給付によってカバーされる費用

・往復渡航旅費
・往復荷物手当
・滞在費
・住居手当
・家族手当
・研究費
・着後雑費

上掲のとおり、フルブライト奨学金制度は非常に手厚いのが特徴です。1については往復の渡航費用や滞在にかかる生活費とは別に授業料まで負担してもらえるのです。2や3も米国大学に所属するための納入金が発生する場合はカバーしています。さらに、4つのプログラム全てに、アメリカでの疾病・傷害をカバーする「フルブライト・グループ保険」が付きます。アメリカで病気になっても日本の健康保険は使えません。意外と気付かないのですが、留学の際の保険については十分に考えておかなければならない問題なのです。

■アメリカで日本語教師をやってみませんか?

おもしろいのは、2008年からスタートした「フルブライト語学アシスタントプログラム」(Fulbright Foreign Language Teaching Assistant:FLTAと呼称)です。これは、米国の大学で日本語を教えながら、自身の英語教育のスキル、英語能力、および米国の社会や文化についての知識を深めることを目的とした9カ月のアメリカ留学奨学金プログラム。

・アメリカの大学で1学年間(9カ月間)日本語クラスを教員として担当、または補佐する(派遣大学により異なる)
・カルチャーイベント、日本語クラブ等を企画・運営する
・大学でアメリカ研究や英語教授法のクラスを受講する

という活動を行います。また、給付の内容は、

・履修する科目の授業料(各学期2コース)
・給付金(月額400ドル程度。派遣先により支給額は変わります)
・宿舎・食事は大学より提供される(派遣先により変わる可能性あり)
・往復旅費(現物支給)
・フルブライト・グループ保険(傷害・疾病)
・米国でのオリエンテーションやエンリッチメントカンファレンスへの参加

となっています。最後に登場する「エンリッチメントカンファレンス」というのは、世界各国からやって来たフルブライターが集まり交流を持つイベント。フルブライターは将来その国を背負って立つ優秀な人材ですから、その会合イべントはさながらミニ「ダボス会議」といった趣になるそうです。

ちなみに毎年、どのくらいの日本人がフルブライターに選抜されているかというと、上記の4つのプログラムとFLTAを足して40-50名ほど。「FY2014-2015 Grant Data」(2014-2015年度の奨学生データ)によれば、

・Graduate Study:22人
・Doctoral Dissertation Research:5人
・Research:12人
・Journalist:3人
・FLTA:5人

となっています。

■日本の若者はもっとフルブライト奨学金制度に挑戦してほしい!

日米教育委員会(フルブライト・ジャパン)の事務局長であるマシュー・S・サスマンさんにフルブライトの奨学金制度についてお話を伺ったところ、

「日本の若者にはもっともっとフルブライト奨学金制度に挑戦してほしいと思います。僕なんか、私なんかと尻込みする人がいるかもしれませんが、志を高く持つことが大事です。確かに英語で会話し、アピールできる能力が求められますが、むしろアメリカで何を研究するのか、研究成果をどのように生かすのか、どのような社会貢献ができるのか、それが明確な人こそ私たちが支援したい人なのです」と語っていらっしゃいました。

フルブライト奨学金制度のスゴみは、アメリカをあまり好きではないと語る人にも「そういう人だからこそ行ってほしい」と門戸を開いていることです。相互理解とは、好悪の感情とは別物。プラグマティズムな国アメリカで創設され、相互理解のための交流事業を掲げるフルブライトならでは、といえるのではないでしょうか。

日米のフルブライト奨学金制度による教育交流事業は2017年に65周年を迎えます。今や160カ国以上とアライアンスを組む巨大な人材交流ネットワークですが、中でも日本のフルブライト同窓会による募金活動や企業・団体・個人からの支援は、世界のフルブライト交流事業の中でとても高い評価を受けています。この記事を読んでいるあなたも、アメリカへの留学を考えているなら「フルブライト奨学金制度」に挑戦してみませんか?

⇒日米教育委員会(フルブライト・ジャパン)
http://www.fulbright.jp/

(高橋モータース@dcp)

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