世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第190回 生乳流通改革という規制緩和 (2/3ページ)
さらに、労働者は日常的に購入する食料や衣類など、生活必需品の品質の悪化や価格高騰に悩まされていたのである。
労働者側に販売店の選択肢はほとんどなかった。質が悪く割高な商品であったとしても、労働者たちは購入せざるを得なかったのである。
個別に見れば「小さな買い手」である労働者たちは、大手の小売業者の巨大なセリングパワー(販売力)に対し、個々人で対抗することは不可能であった。というわけで、個々では「小さな買い手」にすぎない労働者を束ねることでバイイングパワー(購買力)を増し、既存の大手小売業者に対抗するための協同組合が誕生したのだ。
1844年12月21日、ランカシャーのロッチデールに「個別の労働者の購買力」を統合することで購買力を強化し、大手小売商に対抗することを可能にする「生活協同組合」の店舗が開かれた。協同組合運動の先駆的存在となった「ロッチデール先駆者協同組合」の誕生である。
「小さな買い手」あるいは「小さな生産者」が、大資本のセリングパワーやバイイングパワーに対抗し、損を強いられることがないように、「小さな経済主体」を束ねることで相互扶助を図るのが「協同組合」なのだ。農協も、生協も、すべて同じ発想である。
お分かりだろう。生乳の指定農協団体は、「小さな生産者」である酪農家のパワーを束ねることで、大手流通・大手小売りのバイイングパワーに対抗するという発想で作られたのだ。指定農協団体の制度が解体された場合、酪農家は個別に大手流通・小売りと取引交渉をすることになり、「確実に」生乳を買いたたかれることになってしまう。結果、酪農家は弱いところから廃業していくことになる。
生乳の生産者団体の解体について、実は前例がある。1994年にイギリスのMMB(ミルク・マーケティング・ボード)が解体され、生乳の生産者は個別に大手流通・小売りに立ち向かうことになった。結果的に、生乳は買いたたかれ、酪農家の所得は減っていく。酪農家が単体で巨大資本と価格交渉をして勝てるはずがない。
酪農家が損をした分、大手流通・小売り側がもうかった。消費者も一時的には価格下落というメリットを受けるものの、長期的には国内の生乳生産能力が低下し、食料安全保障弱体化を受け入れざるを得ない。