北欧の気鋭小説家が来日 直木賞作家に語った「作品の原点」 (2/3ページ)

マリアだけでなく大工であるオンニも、必ずしも必要に迫られたといったわけではなく家を建て増ししていく。日本人からするとやや奇妙な印象を受けるが、キンヌネンさんによると、これはある時期のフィンランドの流行だったようだ。
「住み古した家に、新しい建物をくっつけていくから、格好悪い見た目のものが多かったです。元々あった建物が増殖していくことから“cancer(がん)”なんて呼ばれていたり」(キンヌネンさん)
また、この小説で強く印象に残るのは、助産師であるマリアや写真技師となったラハヤなど、自立したタフな女性の存在である。
特にマリアが生きた19世紀後半のフィンランドは、キンヌネンさんいわく「女性が手に職を持つなら教師か助産師という時代。ただ、教師は結婚したら職を離れなければならないという風潮がありました」。
こうした女性たちを物語の中心に置いた理由として、「強くて自立した男性を書いた小説はフィンランド文学にたくさんあり、そうした作品の中では、女性はあくまで男性の周りで何かを感じるだけでした。だから、“誰かの妻”としてでも“誰かの母”としてでもない、自分自身として生きる女性を書きたかったんです」と語った。
キンヌネンさんの英語が平易なものだったこともあり、通訳を介す前に冗談の意味を理解した客席から笑いが起こるなど、会場は終始和やかだったが、後半でキンヌネンさんが母語であるフィンランド語で作品を朗読すると、独特の美しいイントネーションにため息が漏れる場面も。