北朝鮮で老若男女が「薬物ビジネス」に手を染める理由 (2/2ページ)

デイリーNKジャパン

平壌以外ではロクな娯楽施設もなく(あっても高くていけない)、味気ない生活のストレスを解消するものとして、運送や売春など、厳しい仕事をこなすための「強壮剤」として使われている。

また、最近では中学生までも親と一緒に吸引するようになった。大げさな話と思われるかもしれないが、こうした話は脱北者だけでなく、北朝鮮国内に住む人々も当たり前のように話す「常識」となってしまった。

この「オルム」はもともと、北朝鮮屈指の化学都市、咸鏡南道の咸興(ハムン)市で密造されていた。その製法が全国に広まり、今や仕入れ価格は1グラムあたり50元(約750円)にまで値下がりした。密売人たちはこれを100グラムずつ仕入れる。そして、80元(約1200円)で小売り業者におろすか、100元以上で直接、利用者に売ることになる。1グラムで平均40元のもうけとした場合、1回の仕入れで4000元が手元に残る。これは4人家族の約1年分の生活費だ。

公開処刑も…

こうした事情をデイリーNKジャパン編集部に明かしてくれたのは、今年の春に韓国入りした脱北者のキム氏(仮名、30代男性)だ。北朝鮮で2年以上にわたり違法薬物の密売で家族を養ってきたキム氏だが、見るからに不健康そうであった。目はくぼみ、顔色の土色だ。聞くと、「密売人は結局、自分でも『オルム』に手を出すことになるんです」ということだった。

「2年のあいだ、手元に常にオルムがあったので一度に1グラム以上吸引することもあった」とのことだ。商売のため、北朝鮮の名門大学を中退しなければならなかったストレスもあったというが、やり直すため、家族の助けを借り、韓国行きを選んだ。

キム氏によると、違法薬物の密売は典型的な「ローリスク・ハイリターン」の商売だという。北朝鮮でも麻薬使用は違法で、最高死刑までもある厳罰である。

しかし実際には、よほど多量でもない限り当局に逮捕されてもワイロを出せば見逃してもらえる。「起訴までされるのは全体の1割くらいでは」(キム氏)というのが実情だ。在庫もかさばらず、身軽な商売だ。

ただ、北朝鮮には麻薬中毒者を治療し、矯正するための施設がまったくないため、一度ハマってしまうと、どこにも逃げ場がない。キム氏のように商売をするうちに手を出して、薬物中毒、果ては廃人になるのがオチだ。一見ローリスクに見える商売も、じっさいはハイリスクなのである。ラクに儲けられる仕事はもはや見当たらない、という資本主義の現実は、北朝鮮とて例外ではないのである。

「北朝鮮で老若男女が「薬物ビジネス」に手を染める理由」のページです。デイリーニュースオンラインは、高英起デイリーNK学生テレビ番組洗脳海外などの最新ニュースを毎日配信しています。
ページの先頭へ戻る