秋津壽男“どっち?”の健康学「難聴と耳鳴りで病院に行くべきは?“怖い耳鳴り”は1種類しかない!」

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秋津壽男“どっち?”の健康学「難聴と耳鳴りで病院に行くべきは?“怖い耳鳴り”は1種類しかない!」

 師走を迎えて忙しくなりました。現代社会はストレスとの戦いですが、1年でいちばん忙しいこの時期、なるべくストレスをためないのが、楽しいお正月を迎える秘訣です。

 ストレス性の病気や疾患は数多くありますが、耳のトラブルもその一つです。ある日突然耳が聞こえにくくなる、あるいは耳鳴りが聞こえるなどですが、そこで質問です。難聴と耳鳴り、病院に行くべきはどちらでしょう。

 本人にとってはやっかいな耳鳴りですが、医学的には大した病気ではありません。

 耳はマイクの役割を果たしています。マイクが拾った音を脳で処理していますが、耳鳴りは「マイクの劣化」であり、何年も耳を使ってきた結果、よけいな信号が出てしまうのが、耳鳴りのメカニズムです。

 ある日突然「キーン」や「ジーン」という音が聞こえてきます。しかしノイズが鳴り続けていると、人間の脳は「このノイズは無害だから無視していい」と学習しマスキングをしてしまいます。無視して耳鳴りに慣れてくると2~3カ月で聞こえなくなりますが、時間がたつと別の音が聞こえることもあります。

 静寂な部屋で耳を澄ますと聞こえる冷蔵庫やパソコンのファンの音も、家族と会話をしたり勉強に集中すると聞こえなくなります。これと同じで、耳鳴りは意識するほど聞こえますが、何かに集中すると気にならなくなります。音楽やテレビをかけると聞こえなくなります。

 つまり、耳鳴りの治療は「気にしないこと」です。ちなみに厚労省の薬のリストのうち、耳鳴りに効く薬は「ストミンA」という1種類だけですが、あまり効きません。現代医学では耳鳴りを完全に治す方法は存在しないのです。

 それでも「怖い耳鳴り」が一つだけあります。「ザ・ザ・ザ・ザ」という拍動性の耳鳴りが聞こえると脳動脈瘤の可能性があり、これは医者にかかるべきですが、「キーン」や「ジーン」という耳鳴りは、単なるノイズ。会話にさえ困らなければ放置して大丈夫です。

 逆に耳関係で怖いのは「突発性難聴」です。これは、昨日まで何ともなかったのに、目を覚ますと片側の耳が聞こえなくなったり、詰まる感じがする症状です。この場合、運がよければ自然に治ることもありますが、運が悪いと、症状が起きたその日にステロイドの点滴をしなければ聞こえなくなる可能性があります。もしも突然聞こえにくくなったら、すぐに耳鼻科へ行ってください。

 もう一つ、ゆっくりと聞こえにくくなる「聴力低下」もあります。いわゆる「耳が遠くなる」という症例で、これまでは「しかたない」とされた症状でしたが、最近は事情が違ってきました。静かなハイブリッドカーが走っているので、後ろから自動車が来たことに気づかないのです。聴力低下が交通事故のリスクを高めており、こうした危険を回避するためにも、外出の際には補聴器をつけたほうがいいでしょう。

 難聴の原因の一つが「耳掃除」です。以前にも申しましたが、綿棒で耳掃除をすると、耳垢を奥に押し込んでしまいます。この押し込まれた耳垢が鼓膜をふさぎ、聞こえにくくなるというケースは少なくありません。この場合、耳鼻科に行って吸引してもらうと、見違えるほど聞こえがよくなります。

 いずれにせよ、難聴になると会話が不便になり、近くの物音が聞こえずに危険を伴います。難聴のレベルにもよりますが、気になる場合は耳鼻科で検査をしてください。

■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。

「秋津壽男“どっち?”の健康学「難聴と耳鳴りで病院に行くべきは?“怖い耳鳴り”は1種類しかない!」」のページです。デイリーニュースオンラインは、週刊アサヒ芸能 2016年 12/22号耳鳴り“どっち?”の健康学秋津壽男ストレス社会などの最新ニュースを毎日配信しています。
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