猫は宇宙人が送り込んだスパイなのか? ネットに流れるあの噂を検証する
ネットでは猫に関するある噂が急速に広まっている。猫の糞に潜む寄生虫(トキソプラズマ)が人を猫好きに変えてしまうという研究結果も警戒を要するが、それどころの話ではない。
それは猫が異星人(宇宙人)のスパイかもしれないという疑惑だ。
猫が我々を監視し、そのデータを母船へと送信するために送り込まれたというのである。猫は我々の一挙手一投足を記録するビデオカメラドローンという説もある。NNN(ねこねこネットワーク)の活動も実は裏で宇宙人が牛耳っているとしたら?
なんか突拍子もない話だが、アメリカではこの陰謀論がまことしやかに囁かれているのだ。今回はこの噂を検証していこう。
我々人類は陰謀論や噂話が大好物だ。最近の調査によると、アメリカ人の51%がJFKの暗殺は陰謀だったと信じているそうだ。さらに15%は政府やメディアがテレビ電波でマインドコントロールを行なっているとしんんじ、4%の人はレプティリアンが政府を操っていることを信じている。
猫宇宙人スパイ説がどの程度信じられているのかは明らかではない。だが調査によれば、アメリカ人の29%が宇宙人の存在を、14%がイエティの存在を信じているのだから、一定数に支持者入ると推測される。
他の陰謀論と同じく、猫宇宙人スパイ説は非常に良く出来ており、真実と巧妙な曖昧さが散りばめられている。それを検証しようというのがここでの試みだ。

■ 猫は宇宙人のスパイ説を検証する
1. 古代エジプト以前に猫の存在に言及した文書が存在しない。その古代エジプトでは、猫は神々からの贈り物として崇められていた
猫宇宙人スパイ説にはいくつかの前提や論拠が存在するが、それらは概ね正しい。一方で多少の議論もある。
現在の哺乳類の生態から過去に絶滅した近縁種を研究している、ワイオミング大学の古生物学者ライアン・ハウプト氏によると、飼い猫の起源がエジプトであるとする説は最も有力なものであるが、猫の骨ならもっと古い場所からでも発見されているそうだ。
メル・サンキストとフィオナ・サンキストの『The Wild Cat Book: Everything You Ever Wanted to Know about Cats(世界の野生の猫)』という本によると、古代エジプトでは飼い猫の輸出が禁じられていたという。

これは他の文明での猫への言及が、エジプトの最初の記録が登場してから数千年後後になった理由を説明するかもしれない。
エジプト以外の場所で古い猫の骨が発見されていることは、そこに飼い猫が存在したかどうかをはっきりと示す証拠にはならない。そしておそらくそうではない、とハウプト氏は付け加える。が、いずにせよ、骨だけではいつ野生から家畜化されたのか判断することはできない。
猫がいかにして世界を支配するにいたったか。古代猫のDNAからその拡散ルートの一部が明らかに(仏研究)
猫崇拝については、陰謀論で主張されるより少々複雑だ。サンキストの著書には、猫は確かに崇められていたと書かれている。ペットとして愛され、死ねば家族の一員として悲しみ、家庭の経済状況に応じて丁重に埋葬された。
猫の墓地はナイル川の川岸に沿って点在していた。さらに猫を殺した場合死刑になった。だが猫は単純に神々からの贈り物だと考えらえていたわけではない。喜びと愛の女神バステトのように、エジプトの神々の中には猫がいたからだ。また、あるパピルスでは太陽神ラーを短剣を振る斑点のある猫として描いている。
2. なぜ猫がごろごろ喉を鳴らすのか、どのように音を立ているのか科学的に説明されていない。フィードバック音ではないのか?
陰謀論が述べる”フィードバック音”が何を意味するのか定かではないが、これも部分的に正しい。だが、猫がごろごろ喉を鳴らす理由は科学的に説明されていないという説がネット上でさも当然のように扱われている一方で、それは話の一部分しか触れていない。猫にごろごろ喉を鳴らす器官がないことは確かだが、分かっていることもいくつかある。ある論文にはこうある。
「リズミカルで反復的な神経的発振器が咽頭部の筋肉にメッセージを送信し、毎秒25~50(Hz)でピクピクと動かす。これが呼吸の間に急激な声帯の分離を起こす――猫独特のビブラートだ。動物行動学者のカレン・L・オーバーオール獣医学博士はこれを”猫版オペラ歌唱法”と呼んでいる。だが、ごろごろ音は通常非常に低音で、耳に聞こえる程度にしか感じない傾向がある」

モノン動物病院のケン・シンプソン博士によると、「その生理学は小さな謎であり続けている」が、彼自身はこれについて素晴らしいことを学んだという。
博士の考えでは、ごろごろ音は、刺激を感じて興奮したことで咽頭部のひだに血液が流れ、これが拡張したときに発生するコミュニケーション手段だという。ひだの間を空気が流れると、振動が発生し音を立てる。膨らみすぎた肺組織に逆らう横隔膜運動も関連があるという話もあるという。経験上、喘息持ちや肺過膨張の猫は若干だが大きなごろごろ音を立てるそうだ。
シンプソン博士はこの行動が学習されたものだという証拠も提示する。例えば、耳が聞こえない猫は絶対にごろごろ喉を鳴らさない。また子猫の頃に髄膜炎を患い、学習できなくなった猫も一生ごろごろ鳴くことがなかった。脳起因説については、疑う理由がないそうだ。
だが、そもそも神経的発振器とは正確に何を指すのか? また行動学的な観点からなぜ猫はごろごろ喉を鳴らすのか。それはちょっとした謎のままだ。宇宙人のスパイ? 野生のチーターですらごろごろ喉を鳴らすことを考えれば、疑わしいだろう。
3. 猫の耳を後ろに引っ張ると、その顔は”グレイ”そっくり。アーモンド型の目、小さな口、小さな鼻まで完全に一致する
確かにその通りだ。

4. 人間よりはるかに優れた視力を持つ。つまり進化の観点からは非常に進んでいることを意味する。一体どのようにして可能になったのか?
猫宇宙人スパイ説によると、猫が大きな目で我々を見つめるのは、彼らが宇宙人のカメラで、人間の行動を記録し、それをグレイに送信しているからだという。
人間ですら、最近生きた細胞からコンピューターを作ることに成功しているのだ。猫の脳に隠されたテクノロジーがないと誰が断言できようか?

それは別にしても、猫の目が人間よりはるかに優れており、それをもって不合理なまでに高度に進化した証拠だとしてしまうのは問題がある。
猫の目には錐体視細胞よりも桿体視細胞が多い。桿体視細胞は白黒の映像を作るもので、夜目には不可欠だ。錐体視細胞は色を加え、細部を認識させてくれる。
猫は夜目が優れているが、視力が”優れている”かどうかはその定義による。色とりどりの世界が見たいと思っている人に猫の目を与えても、ちっとも”優れている”とは思えないだろう。

夜目に関して、猫の目には2つ目の利点がある。以下はニューヨークタイムズ紙の記事の抜粋だ。
「猫はまた楕円形の瞳を持っており、人間の丸い瞳より速く開閉し、もっと大きくすることができる。さらに猫やその他の夜行性動物の仲間には、目の後ろにタペータムという鏡のような膜があり、これが桿体視細胞を通過した光を反対方向へ反射して返す。この”二重露出”のおかげで、猫は真っ暗闇の中でもきちんと見ることができる」
猫がある部分において人間より”優れた”視力を持っているとすることにしよう。その場合、確かに猫は「進化の観点からは非常に進んでいる」だろう。
だがイヌもまた我々より優れた嗅覚を持っている。ミツバチやネズミについてもそうだ。チーターは足がずっと速いし、鳥は飛ぶのがもっと上手で、ゾウの蹴りは人間の比ではない。彼らは宇宙人か? 疑わしいだろう。
本当に異常な点がある種があるとすれば、それは我々だ。その脳の大きさは、体の大きさに応じて自然界が動物に与えるものより3倍も大きい。我々は宇宙人の回し者か?
5. 深い眠りから覚めるやいなや、部屋から飛び出す猫を見たことがあるだろう? 母船からの電波を受信したのだ。彼らはどこかにつながっているに違いない
確かに良くある行動だ。それに対するきちんとした答えはネット上で探すことはできなかった。ではこれが異星人との関連を示す証拠だろうか?アイドンノウだ。

6. 猫が体外に出すものは不自然なものばかりだ。地球のものではない
いやいやいやいや。確かに猫は毛玉という異物を吐くが、猫が四六時中寝っ転がって体を舐めていることを考えれば自然だ。オシッコや糞については、他の哺乳類のものとの違いが分からない……臭いが強烈なこと以外は。
7. 猫は他の地球上の動物が死に絶えてしまう状況でも生き残ることができる。ビルの4階から、しかも背中から落ちて足から着地するとはどういうことか? 反重力を使っているのだ
部分的にはその通りだ。猫は素晴らしいハンターである。仮に人間と猫が地図にも載っていない孤島に連れて行かれたり、あるいは終焉後の世界に置かれたら生き残る確率は高いだろう。だが、それは多くの野生動物に言えることだ。空中での身のこなしは素晴らしいが、猫が常に他の地球上の動物に勝ることができる自然状況を予測することは困難だ。
ただす、ひらりと身を翻すその着地能力は半端ない。YOUTUBEでは、ハイスピードカメラを使って落下する猫を撮影したスローモーション映像を見ることができる。
Slow Motion Flipping Cat Physics | Smarter Every Day 58
その身のこなしは古代から人間の首をひねらせてきたが、今日の物理学者はそれについて多くを知っており、宇宙空間で望遠鏡を操作する方法のヒントにもなった。
機械エンジニアでロケット試験者のデスティン・サンドリンは、猫が角運動量保存の法則を破っているかのようだとコメントしている。
「自由落下する体について、自分自身で、いくつかの環境において研究しましたが、一度一方向に回転角運動が始まるともう止まりません」
しかし猫の自由落下をスローモーションで見てみると、決して物理法則に反しているわけではないことは明らかだ。ただ、とんでもなく俊敏なのだ。物理学的に言うと非常に複雑になるが、それは猫の背中の丸み、伸び、足を引く動作に関連しており、これらを行うことで体を2つの別個の回転軸に沿って回転させている。
反重力を使えるという説は魅力的だが、あまり関係はなさそうだ。
8. 飼い主が死ねば、猫は遺体を食べてしまう。
これは真実だ。例えば、2010年、ペンシルベニア州で母親と一緒に亡くなっている男性の死体が発見された。それはかなりたくさんの猫によって食されていた。
だが飼い主の遺体を食べてしまうペットは猫だけではない。場合によっては飼い主を殺して食べてしまうこともある。ペットの豚、ニシキヘビ、カバ、トカゲによる事例、あるいは自殺した飼い主を食べて2週間生き延びたというパグ犬の事例もある。
犬好きの人なら、飼い主を食べて苦境をしのぐペットは猫だけと信じたいところだ。だが、それは真実ではない。歴史には人間を、それが飼い主であろうとも食べてしまった犬の事例があふれている。キリストの遺体が犬に食べられており、信者がある種の対処メカニズムとして荘厳な埋葬の話を作り上げたという説もあるくらいだ。

こういったことが不気味であり、興味深いことは事実だが、ネコが宇宙人のドローンであるという証拠にはならないようだ。
via:Are Cats Spies Sent by Aliens?/ translated hiroching / edited by parumo