政治犯は「家族もろとも処刑」 金正男氏の遺族が名乗り出られない理由 (1/2ページ)

デイリーNKジャパン

政治犯は「家族もろとも処刑」 金正男氏の遺族が名乗り出られない理由

マレーシア当局は、北朝鮮の金正恩党委員長の異母兄・金正男(キム・ジョンナム)氏殺害の実行犯として逮捕したインドネシア国籍とベトナム国籍の女性らを殺人罪で起訴した。その一方、事件に関与したと見られていた北朝鮮国籍のリ・ジョンチョル容疑者については、3日の勾留期限をもって証拠不十分により釈放、国外追放とする見込みだ。

韓国の不甲斐なさ

女性らは、有罪が確定すれば死刑もあり得るという。ただ、マレーシア当局が起訴事実を立証するのは簡単ではないとされる。

彼女たちが死刑になろうが無罪になろうが、北朝鮮にとっては都合の良い展開であると言えるかもしれない。北朝鮮がほかの容疑者たちを、マレーシアに引き渡す可能性はほぼゼロだ。となれば、女性らが死刑になれば、ことの経緯を語ることのできる生き証人はいなくなり、事件は風化を待つこととなる。反対に殺人罪が不成立となれば、事件はなかったも同然の扱いになりかねない。

いずれの場合においても、マレーシア当局が遺体の身元を確認できなければ、被害者は旅券に記された「キム・チョル」として処理される。

いま、日本にいる私たちの目に映っている「金正男氏殺害事件」が、「キム・チョルさんが誰かに殺されたかもしれない出来事」というぐらいの、わけのわからない記録でしか残らない可能性があるということだ。

ことの流れを真相解明に引き寄せるためには、遺族がマレーシア当局にDNAサンプルを提供し、事件前の正男氏の身辺での出来事について語らなければならない。しかし、正男氏の妻子もまた北朝鮮国民であり、たとえ海外に暮らしていても、直接・間接的に北朝鮮政府の支配を受けている。国民の権利など歯牙にもかけず、意に沿わない政治犯は家族もろとも殺してしまう金正恩体制の性格を考えた場合、国家の意思に反する形で行動するのはきわめて難しいのだ。

正男氏の遺族に対し、それでもDNAサンプルの提供と証言を求めるとすれば、亡命受け入れとその後の生活保障も含めた、徹底的な身辺保護が図られなければならない。

それをすべき一義的な責任は、北朝鮮との分断国家であり、将来的な統一を志向する韓国が担わなければならない。

ところが、現在の韓国にはそのような余裕はまったくない。

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