バリスタ世界王者が語る「一番おいしいコーヒー」とは (3/4ページ)
それはたとえるなら、グラインダーに指紋が残っているかどうか、それくらいの僅差です。でも、全然ダメでしたね。すべてがダメでした。周囲に言われたことを、すべて詰め込もうとして、自分を見失っていて。世界王者になろうという覚悟もなかった」と、井崎さん。戦いに敗れた夜、一人ホテルを出て、近くの公園に向かったという。
「1年間、この日のために生きてきたのに、こんな結果になって……と、公園のベンチでどん底まで落ち込んでいたら、不思議なことに、ポッサム(オーストラリアに生息するフクロネズミ)が近づいてきたんですよ。それも1匹じゃなくて、3~4匹も集まってきて、目の前で座っているんです。ポッサムは人間が近づくと、すぐに逃げてしまう警戒心の強い動物なんです。だから、これは考えられないこと。よっぽど僕が可哀相に見えたんでしょうね(笑)」
井崎さんは、集まったポッサム相手に自分が負けた理由をじっくりと話したという。なぜか静かに話を聞いてくれる彼らに対し、何が悪かったのか、何が足りなかったのか、夜通し話をしたのだという。
「気がついたら、ポッサムはいなくなっていました。でも、話終わったら“これはコーヒーの神様が与えてくれた試練なんだ”というふうに考えられるようになっていましたね」と笑う井崎さん。そして、井崎さんは翌年、2014年のWBCで世界王者に輝く。その軌跡は、『BREAK! 「今」を突き破る仕事論』に、詳細がつづられている。
今、井崎さんは“コーヒーエバンジェリスト(伝道者)”の肩書きで仕事をしている。日本にいることのほうが少なく、毎日のように飛行機で世界を飛び回り、講演活動、コーヒーメーカーとの製品共同製作、コーヒー関連器具の開発などなど、幅広い仕事をこなしている。その中でも力を入れているのが、人材の育成だという。
「今年も11月にWBCが行われるのですが、そこに僕がトレーナーを務めているバリスタが4人(日本人、オーストラリア人、スイス人、イタリア人)も出場するんです。当日は、大会でMCの仕事もあるので、正直みんなをフォローできるか心配ですね。でも、頑張りますよ。やはり教育は素晴らしいものだと感じています。勉強は教えられるものではなく、自分でつかむもの。教育によって、人の人生は変わる。