ジャーナリスト・森健が突きとめた、名経営者・小倉昌男の「素顔」と「失敗」(後) (3/3ページ)
昔の殿と忠臣の関係といいますか、とても結束が強かったことを感じました。
「宅急便」という新たなマーケットを創るために小倉さんは戦い続けたわけですが、それが達成できたのは、本来経営陣と対立するはずの労働組合の人たちが小倉さんという人物を信頼し、協力したからでした。上司と部下を超えた緊密な信頼関係があってのものでした。だから、当時一緒に戦っていた彼らは本当の小倉さんについて話したいんです。
――今後、小倉昌男のような人は現れると思いますか?森:事業的な成功者という意味では出てくるでしょう。ただ、彼のような家柄も学歴もエリートの古き良き経営者、志や哲学を持った人は少ないだろうという予感はします。
―― この本は各所から絶賛を受けています。出版から少し経ちましたけれど、改めていかがですか?森:やはり取材は楽しかったです。今回は基礎的な資料を読み込み、自分が思った疑問に対する仮説がどんどん裏切られていったパターンですが、その裏切られ方は心地よいものでした。
また、最後にアメリカで小倉さんの娘さんと息子さんにお話を聞けたことが、この本を着地点に届かせた決定的な出来事だったと思います。
――まさに一番の核心の部分ですね。森:そうですね。あの話が聞けなければこの本は出ていなかったでしょうし、評価を受けることもなかったと思います。
――本書をどのような人に読んでほしいとお考えですか?森:もちろんビジネスパーソンの方々に読んでいただくのもありがたいのですが、小倉さんが抱えていた問題は、実はどんな人、どんな家族にも共通することだったと思います。
小学館ノンフィクション大賞の授賞が決まった日の夜、事務局に呼び出された際、そこで選考委員で作家の平松洋子さんから「私も自分の父親を思い出した」という感想をいただいたんです。それはすごく嬉しくて、まさに小倉さんは昭和の父親像そのものなんです。武骨で不器用で、家庭内でどう振る舞えばいいのか分からない。その気の弱さが、家族の問題を悪化させることにつながっていくわけですが。
だから、読んで下さった方々の頭の中で自分の父親とリンクするところが出てくると思いますし、自分の家族を想像しながら読んでもらえるとありがたいですね。
(了)