漁業では水死体(エビス)に出会うと大漁をもたらすものと信じられていた (1/4ページ)

心に残る家族葬

漁業では水死体(エビス)に出会うと大漁をもたらすものと信じられていた

現在我々が「エビス」と言って思い浮かべるのは、ヱビスビールのシンボルマークである、烏帽子(えぼし)をかぶり、大きな鯛と釣竿を持った、陽気な笑顔の福の神だ。魚と釣竿が持物(じぶつ。アトリビュート)であるため、「エビス」は漁の神、海上交通の神と考えられているが、交易の神、農業の神、商売繁盛の神など、多種多様な「顔」や側面を持っている。

■中国でのエビス 日本でのエビス

「エビス」は夷・狄・戎・胡・蛭子・蝦夷・恵比須・恵比寿・恵美須…などと書き表されてきた。もともと中国では「エビス」は、漢民族を中心に見て、北方の異民族、南海岸に住む未開の人々を意味していた。日本においては中国に倣う形で、記紀神話の蛭児(ひるこ)神、大国主(おおくにぬし)神、事代主(ことしろぬし)神などと結びついて、自分たちとは違う「異邦人」「来訪人/神」「漂着人/神」を意味するようになっていった。

海の神としての「エビス」は、例えば鹿児島県の下甑島(しもこしきじま)の瀬々浦(せせのうら)では毎年、漁期の口明けの時期は、地域で評判がいい若者が新しい手ぬぐいで目隠しをして海に飛び込む。そして海底の石を拾い上げて夷(エビス)神に祀る風習があったという。また、島根県・隠岐(おき)の知夫(ちぶ)の漁師たちは、海で釣り糸を垂れるとき、「チョッ、エビス、エビス」と唱え、大漁を祈願したという。

■「水死体」や「流れ仏」の呼称でもあったエビス

また「エビス」は、海の神のみならず、鯨・イルカ・トドのような海獣、更には身元不明の海難者の死体こと「流れ仏(ナガレボトケ)」に対する呼称でもあった。

「エビス」は漁師たちの間では、大漁をもたらすものと信じられていたため、引き上げられた後、手厚く葬られた。その後、漁村の外れに祠を建て、初魚を供えて、航海安全と大漁を願う風習があったという。長崎県・壱岐(いき)では、引き上げた「エビス」に自分の肌着を脱いで着せた後、陸に戻って手厚く葬ると、その人の運勢がよくなると信じられてもいた。

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