【世界初】iPS細胞から血小板を人工的に量産 安全性と課題は?

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2017年8月7日、iPS細胞を使った輸血用の血小板の開発をしている京都の大学発ベンチャーが、日本とアメリカで臨床試験を開始するとし、2020年をめどに医療現場で利用できることを目指すと発表しました。(参照)



iPS細胞から血小板を量産する技術を確立したのは世界初になるということです。



今回は、iPS細胞と血小板の最新研究や、iPS細胞の作製方法・安全性・課題・今後の展望などを医師に解説していただきました。






iPS細胞の最新研究
iPS細胞から血小板が量産できる!?

医師



2012年に日本人医師の山中伸弥氏がノーベル賞を受賞したことで有名になったiPS細胞ですが、各医療分野で実際の患者さんへの応用への試みが行われています。



今回は血液の細胞の一つである「血小板」を大量に安定して作製する技術が完成に近づいているという発表がなされました。



従来の血小板の精製法と保存法

現在、血小板は人工的に作り出すことができず、全て献血された血液から精製されています。血小板は凍らせて保存することができず、採血してから4日間しか使用できず、余りは破棄されています。



血小板輸血の課題・問題点

赤血球にはA・B・O・ABの血液型があり、自分と同じ血液型の血液しか輸血できませんが、血小板にはそういった血液型はありませんので、基本的には誰からの血小板でも輸血できます。



しかし、繰り返し血小板輸血を受けている患者さんは、他人の血小板への拒絶反応が起こるようになってしまい、相性の合う特定の人からの血小板しか受け付けられなくなる場合もあります。



そのような場合、その患者さんが血小板輸血を必要とするたびに、相性の合う献血提供者に事情を説明し、善意での献血提供をお願いするということが行われています。



今後の展望

拒絶反応の起こらない血小板が人工的に作り出され、安定して供給される体制が整えば、多くの患者さんが救われることになります。



ニュースでは2018年に臨床試験を開始し、2020年の承認を目指すとのことです。




血小板の役割

血小板



血小板は血液の中を流れており、血管が破れて出血している傷口を見つけると、そこに集まり傷口をふさぐ役割をしています。



人間の体は、特に刃物で傷つけたなどでなくても、わずかな外力で常に血管が破れ、傷ついていますが、我々が意識しないうちに血小板が働いて治してくれているのです。



血小板が働かなければ、打ち身をした覚えもないのに皮膚の下に出血したり、食事しただけで歯茎から出血したり、脳や胃腸から出血したりといったことが起こります。




血小板がうまく働かなくなる病気

血小板



以下の病気では、多くの患者さんが血小板輸血を必要としております。



■ DIC(播種性血管内凝固):手術や事故での大量出血、がんを含む様々な病気の末期症状。



■ 白血病、骨髄異形成症候群、血小板無力症:正常な血小板が作られなくなる。




iPS細胞とは 

ips細胞



iPS細胞の作製方法

人間の体のどこかの細胞を取ってきて、化学処理することで、体の多様な細胞に変化させられる能力を持った細胞を作り出すことができます。これがiPS細胞です。



皮膚細胞は一部切り取ってもまた再生します。皮膚細胞の性質を変えるような信号をもった遺伝子を細胞に作用させることで、皮膚よりも原始的な細胞に変化させます。



こうしてできたiPS細胞は、皮膚だけでなく様々な臓器の細胞に変化できます。



iPS細胞の問題点

患者の細胞からiPS細胞を作り、さらに必要とする細胞に変化させるためには時間がかかるため、必要なときに必要な細胞を手に入れられないことが問題となっていました。



つまり交通事故で大量出血しており、今血小板が必要なのに、今から数か月かけてiPS細胞からできた血小板ができるのを待っていることはできないということです。



しかし、患者自身の細胞からiPS細胞を作らなくても、何人かの代表者のiPS細胞を作っておけば、患者と免疫状態が似た細胞が見つかるので、拒絶反応が起きない細胞が手に入ると言われています。



あらかじめ何人かの細胞をもとに血小板を作っておけば、そのどれかは患者に合うので、必要なときに必要な人に届けられるということです。




ES細胞との違い 

細胞



ES細胞も様々な細胞に変化させられる能力を持っているのですが、体の細胞ではなく、受精卵から作っています。



つまり女性の子宮に入れれば赤ちゃんになったかもしれない細胞を壊して作ったということです。


これは人間がやっていいことなのか?という倫理的な問題がありました。



一方、iPS細胞は皮膚などの細胞から作れるため、命を壊して作ったという倫理的問題がありません。


  



iPS細胞の安全性

癌細胞



iPS細胞は増殖能力が盛んなので、増殖し過ぎてがんのようになってしまうのではないかという懸念がありました。



これについては今後の臨床試験でも検討されると考えられています。




現在行われているiPS細胞の研究

研究



様々な臓器を作る研究

神経、骨、皮膚、心臓など多くの臓器を作り出す研究が行われています。



しかし、血液以外の細胞は単にバラバタの細胞として体内に入れるだけでは意味がなく、他の細胞と連携して立体的な構造を作り、その細胞ならではの役割を秩序だって果たす必要があります。



その為に、細胞を立体的に組み立てて培養する研究なども行われています。



人体実験の必要をなくす研究

人体に細胞や組織を移植するだけでなく、試験管内でiPS細胞に薬をかけ、その有効性や副作用について試験すれば、わざわざ人体実験をしなくても良くなるのではないかという方面でも研究が進んでいます。




最後に医師から一言

医師たち



iPS細胞は無限の可能性を秘めており、多くの研究が行われており、今後患者さんへの臨床試験が進んでいくでしょう。



しかしiPS細胞を使用した治療は莫大な費用がかかり、手軽に手の届く治療となるかどうかは不明です。



長期的な安全性や有効性についても、今後長い目で見て検証する必要があると思われます。



(監修:Doctors Me 医師)



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