ザコにも魅力がある?『北斗の拳 -世紀末ザコ伝説-』舞台上演・記念インタビュー

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ザコの魅力を『北斗の拳 -世紀末ザコ伝説-』の仕掛け人に聞いてみた!
ザコの魅力を『北斗の拳 -世紀末ザコ伝説-』の仕掛け人に聞いてみた!

 週刊少年ジャンプの名作『北斗の拳』に登場する名も無き悪党たち──、ザコ。彼らを主役とした舞台『北斗の拳 -世紀末ザコ伝説-』が2017年9月6日から9月10日、シアターGロッソ(東京都文京区)にて公演される。『北斗の拳』35周年(ザコ周年)記念作品である。

「ザコの、ザコによる、ザコのための、ザコだけの舞台」と銘打ったこの舞台。プロデューサーは上司からラオウの登場を打診されるも、断固拒絶し、あくまでザコの舞台にこだわったと言う。

 非生産的、非合理的、そして近視眼的な悪逆無道行為を働いてはケンシロウに罰せられ、爆裂四散していく名もなきザコたち……。なぜ我々は彼らザコに惹かれるのか。どうしてザコを求めて舞台へと行くのか。ザコの魅力とは何なのか? 今回の舞台の仕掛け人である加藤友誠氏(ノース・スターズ・ピクチャーズ)にザコの魅力について話を聞いてきた。

■ザコの尽きせぬ魅力とは?

加藤友誠(以下ザコP)「こんにちは。『北斗の拳 -世紀末ザコ伝説-』プロデューサーの加藤友誠です。ザコPと呼んで下さい」

──ザコの魅力に関する様々なお話をお聞きしたく参りました。建設的議論のための前段階として、まずは呼称を確定したいのですが、私の知るところ「ザコ」「モヒカン」「モヒカンザコ」「無法者」「悪党」などの呼称があります。公式ではどのような呼び方をしていますか。

ザコP「ザコ……ですね。原哲夫先生も『ザコ』と呼んでいます。原作の武論尊先生も『ザコ』だったはずです」

──分かりました。当記事も「ザコ」で統一します。

──では次にザコの定義を行いたいのですが、公式的にはどこまでがザコなのでしょうか? 今回のザコ舞台に登場しているということは、ジャギ様はザコという認識でしょうか?


©武論尊・原哲夫/NSP 1983
注釈:北斗四兄弟の三男。実力も人品も兄弟の中で最も劣悪だが、そうは言っても結構強い。

ザコP「いえ、ジャギはザコじゃないですね。本当はジャギも出したくなかったんですが……。名前があって、物語を作っているようなキャラはザコではないと考えます。今回の舞台で扱われるのは名も無きザコたちです」

──では、アミバ様もザコではない、と。

©武論尊・原哲夫/NSP 1983
注釈:自らを天才と自負する男。人品は劣悪だが、研究熱心な上に拳法の才能も実際ある。

ザコP「そうですね。アミバもジャギもすごい才能の持ち主ですしね」

──ジード様やスペード様は?

©武論尊・原哲夫/NSP 1983

注釈:第一話でケンシロウに殺害された悪党。北斗世界におけるザコのイメージは概ねこのキャラが作った。

©武論尊・原哲夫/NSP 1983
注釈:シンの部下。種籾を奪ったことで有名。

ザコP「あいつらはザコですね」

──ということは、もちろんクラブ様やダイヤ様も?

©武論尊・原哲夫/NSP 1983
注釈:シンの部下。スペード様、ハート様の影に隠れて存在感が薄いが、彼ら二人を主人公とした短編が実は存在する。

ザコP「当然ザコですね。主人公に殺されて読者が心地よくなる奴らはザコです」

──なるほど、そのキャラクターに物語性が含まれているかどうかが一つのラインなんですね。ジード様やダイヤ様は、名前はあるものの、そのキャラクターのバックグラウンドが原作からは見えてこない。個別の物語がない。ゆえに「やられ役」という役柄だけが与えられ、「やられてスッキリする」「ザコである」ということですね。

ザコP「そうです。ですが今回の舞台は、そんなザコたちの『物語』です。彼らはザコだけど、彼らも生きてるんです。生活があるんです」

──今回の舞台に至る流れを知りたいのですが、ザコはいつ頃から注目され始めたのでしょうか? 私の知るところではゲーム『北斗無双』(2010)でDLCプレイアブルキャラクターとして「無法者」(ザコのこと)が採用され、朝日新聞の全面見開き広告(2013)でザコが大々的にフィーチャーされました。

注釈:ザコで埋め尽くされた見開き広告。「エラそうに新聞なんて読みやがって!!!」という理不尽な言い掛かりがいかにもザコらしい。

──そして、アプリ使用者がザコになりきれる写真アプリ『北斗のブース』が2014年に登場。私の記憶によれば、『北斗無双』の少し前からザコが話題に登り始めていた気がするので、ここ10年ほどでザコは大きく育ってきた感じでしょうか?

ザコP「原作の話になりますが、元々、ザコ自体、原哲夫先生がかなり力を入れて描いてきた存在ではあるんです。原作や担当編集の制約から離れて、原先生が最も自由に演出を加えられる存在、それがザコだったんです。僕も弊社で仕事していく中で、それに気付き、ザコという存在がだんだん面白く思えてきたんです」

──なるほど、源流からしてザコは作者のパワーが込められた存在である、と。

ザコP「それで10年ほど前から、ザコをフィーチャーした『俺たち拳王親衛隊』などのショート作品が漫画雑誌に掲載されてきました。また、三十周年記念の時には、日本橋ストリートフェスタでザコたちが黒王号を引いて練り歩くというパフォーマンスを行いました。この時はどうしてもケンシロウを入れたいと言われて、ケンシロウと黒王号が並んで引かれる形となったのですが、僕は本当はザコだけで練り歩きをやりたかったんです」

注釈:使用された黒王号。なお、ザコを担当していたのはプロレスラーたちとのこと。

ザコP「去年は自撮りジェネレーターアプリ『北斗の宴』がサントリービールから配信されました。北斗のキャラっぽい悪党面になれるアプリなんですが、これも実質ザコアプリですね。トヨタのC-HRのCMでもザコがたくさん登場しています」

ザコP「後は弊社から先月出版された『世紀末ザコ伝説』。ザコを集めたデータブックです。そういうのが色々あるにはあったんですが、原哲夫先生は『ここ一年でザコを描く依頼が急に増えた』と仰っていた気がします」

──なるほど。いま時代が急速にザコを求め始めてきた、ということですね。分かります。しかしそれでも、ザコだけで舞台を開催するというのは、かなり困難な道程だったのではないでしょうか? 常識的に考えて、普通、社内会議を通らないような……。

ザコP「いや、実は社内会議通してないんですよ」

──エッ?

ザコP「今回の舞台は社長の鶴の一声なんです。今年の三月に社長の堀江(注:『北斗の拳』の当時の担当編集にして、現コアミックス、ノース・スターズ・ピクチャーズ代表取締役)が『拳王親衛隊で舞台をやるんだよ!』と突然言い出しまして」

──スイマセン。ちょっと意味が……。

ザコP「あ、いや、ちゃんと流れはあるんです。弊社とイマジニア株式会社との共同事業で作った漫画アプリ『マンガほっと』のリリースに合わせて盛り上げていくべく色々な仕掛けを打っていったんです。話題になった稀勢の里のラオウの化粧まわしもその一環です」

ザコP「その流れの中で出てきた話ですね。ザコ舞台はもともと私が五年間ずっと温めていた案でして、この五年間、ずっと社長の耳元で『ザコ舞台どうですか?』『ザコ舞台面白くないっすか?』と延々呟いてきました。それがラオウの化粧まわしが盛り上がった勢いで、ラオウ繋がりで『拳王親衛隊の舞台』として実った形となります」

──なるほど。ザコPがザコ舞台を何度も社長にアピールすることで、社長の脳髄にサブリミナル効果的にザコが刷り込まれたわけですね。

ザコP「そういうことです」

──あれっ? てことは、今回の舞台は、設定的には拳王親衛隊のザコたちなんですか??

ザコP「いえ、違います。色んな所属のザコたちの話です」

──拳王親衛隊という設定も離れて、社長からラオウの登場も打診されたけど断固拒否して、「ザコ」という一点に集中させたんですね。よく社長怒らなかったですね……。一体、何がそこまでザコPをザコへと動かしているのでしょうか?

──当たり前ですけど、北斗の拳で舞台をやることになった場合、ケンシロウでもラオウでも主役にできるわけじゃないですか。なぜそこでザコなのですか?

ザコP「それはやはり、自分がザコだからだと思います。僕だって子供の頃は『ケンシロウになりたい』と思ってました。けれど、ケンシロウは憧れの対象ではあっても、やっぱり自分はケンシロウにはなれないんです。ヒーローは1%のみ。残り99%は一般人です。一般人の僕は実際に世紀末が来たら、ザコか村人になるかしかない。じゃあ、一般人である自分の人生はダメなのか、って言われたらそんなことないですよね。胸を張ってザコとして生きていけばいい。そういう思いがあるんです」

──私はそこが一つのポイントだと思います。ケンシロウになれない、というのは分かります。でも、それなら『世紀末村人伝説』でも良かったわけですが、実際にフィーチャーされたのはザコの方だった。そこにこそザコの魅力が隠されている気がするんです。なぜ、村人ではなくザコだったんですか?

ザコP「正確に言うと、僕の中には村人というカテゴリーはないんですよ」

──村人がない? どういうことですか?? 人類皆ザコということですか??

ザコP「ザコと村人の間に明確な線引はないというか、あんな時代ですから、何か一つ間違えば村人だってザコになると思うんです。ザコだって昔はサラリーマンだったかもしれません。だから、原作では明確な悪役であり、やられ役でしたけど、彼らだって村人と同じで生きている人間なんです。真面目なザコから小狡いザコまで色んなザコがいるはずです。ザコは社会の縮図なんです。彼らの実際の生活を描けば、何が『正義』なのかはもっと曖昧になると思います。ザコに魅力があるというよりも、ザコだってそれぞれの立場で一生懸命生きている、という感じですかね、今回のテーマは」

──なるほど。しかし、例えば、『北斗の宴』などはザコなりきりアプリですよね。我々にはザコへの憧れというか、「ザコになってみたい気持ち」があると思うんです。でも、世紀末で村人になってみたい、とは思わないですよね? やっぱりザコには特別な魅力がある気がしてなりません。ザコPは弱民から種籾を奪ってスカッとしたくないですか? 私はしたいです。

ザコP「い、いや……そういう気持ちはあんまり……」

──エッ? 本当ですか!? 人間ハンマー投げとかで村人を無意味に殺傷したりしたくないんですか? 私はしたいです!

ザコP「実際にやるかと言われればやりませんけど……。確かにYoutuberとかの破天荒な行いに対して、心の奥底で共感するものはあるのかもしれません。自分はそこまでできないけど、破天荒さに憧れる……というか……」

──ほら! やっぱり、ザコになって残虐非道行為がしたいんじゃないですかー! イイ子ちゃんぶりやがってよぉお~~!

ザコP「い、いや、でも! 今回の舞台はザコの残虐非道行為を再現したいわけじゃないんです! 自分はそんなことやらないけど、ザコのそういう行為を否定できるのか、というテーマなんです!」

──なんだと~~?

ザコP「だから今回の舞台は子供にも見て欲しいんです。ヒーローになれないザコであっても生きてるんだ、ザコでいいんだ、窮屈な世界だけどもっと自由に生きて良いんだ、そういう気持ちになって欲しいんです!」

──今回は貴重なお話をありがとうございました、ヒャッハー!

****

 ザコにはザコの人生があり、物語がある。原作において物語性、人間性を排除されてきたザコたちだからこそ、そこに想像の余地が残され、彼らの人生を想像することができる。そして、想像してしまえば、彼らに物語が生まれ、より身近な存在として、われわれはザコへと感情移入することができるのです。

 彼らの底抜けの明るさとエネルギーが、物語性を付与されることによってどう変化するのか。等身大の人間となったザコたちは今まで通りに元気にヒャッハーできるのか。9月6日からの舞台を楽しみに待ちたいと思います。

舞台『北斗の拳 -世紀末ザコ伝説-』

【公演日程】
2017年9月6日(水)~10日(日)

【会場】
シアターGロッソ(〒112-0004 東京都文京区後楽1丁目3−61)

【原作】『北斗の拳』原作:武論尊 漫画:原哲夫
【脚本】川尻恵太(SUGARBOY)
【演出】村井雄(KPR/開幕ペナントレース)
【音楽】TSUTCHIE

【OPENING LIVE】「愛をとりもどせ!!」クリスタルキング with A応P
【声の出演】千葉繁

【出演】
磯貝龍虎、河合龍之介、寿里、花園直道、林野健志、水希蒼(A応P)/
青山フォール勝ち(ネルソンズ)、キャベツ確認中(キャプテン★ザコ、しまぞうZ)、
街裏ぴんく/大岩主弥、福島悠介、吉野哲平/
円盤ライダー(渡部将之、冠仁、賢茂エイジ、森田和正)、
KPR/開幕ペナントレース(高崎拓郎、G.K.Masayuki、森田祐吏)

ジャギ(トリプルキャスト):角田信朗(6日・7日夜・9日昼)、
武田幸三(8日・10日昼)、山本圭壱(7日昼・9日夜・10日夜)

【出演ゲスト】
谷口賢志さん(9/6 19:00)、川本成さん(9/7 14:00)、河原田巧也(9/7 19:00)水石亜飛夢さん(9/8 19:00)
中河内雅貴さん(9/9 13:00)、中村優一さん(9/9 18:00)、藤田玲さん(9/10 13:00/17:00)

【アフタートーク】
・9/6夜 初日公演 磯貝龍虎、河合龍之介、水希蒼、千葉繁
・9/7  昼公演  A応P
・9/7  夜公演  武論尊・原哲夫
・9/8  夜公演  寿里、林野健志、花園直道

©武論尊・原哲夫/NSP 1983, ©北斗の拳-世紀末ザコ伝説-製作委員会2017 版権許諾証GP-907

著者プロフィール

作家

架神恭介

広島県出身。早稲田大学第一文学部卒業。『戦闘破壊学園ダンゲロス』で第3回講談社BOX新人賞を受賞し、小説家デビュー。漫画原作や動画制作、パンクロックなど多岐に活動。近著に『ダンゲロス1969』(Kindle)

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