実話怪談『幽霊のいる旅館』 (1/2ページ)
E子さんが九州の山奥の秘湯に行ったときに体験した出来事である。
友人と二人で潰れかかった温泉宿に宿泊することになった。
粗末な家屋はいつ傾いてもおかしくない状態で、窓からは山々が望める。
これらの自然は、秘湯という演出にはもってこいの舞台装置にもなっていた。
「こういう部屋の趣がいいのよね」
「そうよね。まさに隠れ家って感じかな」
友人と一緒に部屋でくつろいでいると、部屋を間違えて老婆が入ってきた。
最近では珍しい、えらく腰の曲がった老婆である。足取りも弱々しい。
部屋の半ばまでくると、老婆は二人の顔を不思議そうに見つめた。
「おばあちゃん 部屋間違えているよ」
二人は吹き出しながらも、老婆にやさしく言った。
「ああ、そうかね。ごめんなさいね」
老婆はにこにこ笑いながら廊下に出ていった。
「かわいいおばあちゃんね」
「そうだね、なんかちっちゃくてかわいいね」
E子と友人は微笑ましく思った。
自分たちの祖母と、老婆の姿がだぶったからである。
そこに初老の旅館の番頭さんらしき人物が挨拶にきた。
小綺麗な和服の出で立ちは老舗旅館に相応しい。
お湯の効能や、周辺の史跡などの話を番頭がしてくれた。
二人が思わずさっきの愉快なエピソードを披露すると、番頭の顔色がみるみる青く変化した。
「はあ…また出ましたか」
番頭は、ぽつりとつぶやいた。
話を聞くと、この旅館で療養中に亡くなった老婆の幽霊が、度々出ては宿泊客を脅かしているのだという。
「ええっ、まさか」
騒然となるE子と友人。
しかし、もう既に夕方も近く、周辺には代わりの宿もないようだ。
とりあえず温泉に入って、眠ろうという事になった。
すると風呂の入口で、またあの老婆とすれ違ったのである。