吉田豪インタビュー:西野亮廣・前編「今回は売り方の本なので、あざといのを全面に出している」
プロインタビュアーの吉田豪が注目の人にガチンコ取材を挑むロングインタビュー企画。今回のゲストはお笑いコンビ「キングコング」の西野亮廣さん。絵本作家、上場企業の顧問、町づくりのプロデュースなど、従来の芸人の枠からハミ出した活動をしている西野さんが、ビジネス書『革命のファンファーレ』を発表しました。西野さんが「どんな方法を使ってでも売ってやるってスイッチが入ってる」とまで語る本書の制作宣伝の裏側についてお聞きしました。
クラウドファンディングで叩かれない理由
──西野さんに対して釈然としないのは、クラウドファンディングでこれだけ芸能人が叩かれまくっている時代に、トップクラスで稼いでいる西野さんが全然叩かれていないことなんですよ。
西野 たしかにそうですよね(笑)。
──総額1億円も稼いだ以上、もっと叩かれてもいいはずなのに!
西野 真木よう子ちゃんとか山田孝之くんのあの感じを見てると、額的にもそうですよね。あんまり叩かれてないんですよね。
──どうしてなんだと思います?
西野 数百万円って想像つくじゃないですか。たとえば舛添要一さんがネットで10万円とかの買い物を税金かなんか使って買ってたときってめちゃくちゃ叩かれてましたけど、石原慎太郎さんとかが何億円とか使ってたらちょっと想像できないじゃないですか。
──ちょっと感覚が麻痺しますよね。石原慎太郎が数百億とかブチ込んだ銀行をダメにしたとか言われると、規模がデカすぎて。
西野 デカすぎて想像できないっていう、そっちなのかな? 1億円とかになってきたらよくわかんないんじゃないですかね。リアリティがなくなって。それか、いきなり始めたんじゃなくてだいぶ前からやってたから、もしかしたらちょっとずつ慣らしてたっていうのがあるんですかね。
──いまの世の中ってズルいことに不寛容だと思うんですけど。
西野 ああ、はい。
──「お金を持ってる人間がクラウドファンディングやるなんてズルい!」っていう発想があるみたいで。それでいうと西野さんは確実にズルいはずなんですよ。
西野 ハハハハハ! そうなんですよね、たしかに。ズルいってことで叩かれてるんでしたっけ?
──山田孝之さんなんかはそうでしたね。「僕らは自分のお金で頑張ってるのに、こんなにお金を持ってる芸能人がなんで!」って。
西野 その説明も面倒くさいんですよね……。
──今回の本『革命のファンファーレ』を読めばわかるんですけど、簡単にお願いします!
西野 はい。そのぶん信用を稼いだっていうことですね。みなさんがお金を受け取る場で受け取らずに、別のところで信用稼ぎをやってクラウドファンディングでお金化したっていうことなので、そこまでズルいことはやってないって自分では言い張れるんですけど。
──信用を積んで、お金を払った人がズルいと思わないような関係を作る、共犯意識をどう持たせるかっていう話ですよね。
西野 はい、おっしゃるとおりですね、たしかに。
今回の本ではあざとさを全面に出している
──西野さんの本の帯文も書いてますけど、秋元康さんがAKBのシングルとかでやってることにも近いと思うんですよ。
西野 ああ、たしかに。あれもお金を払ってる人はべつになんとも……。
──誰ひとり怒ってない。完全に共犯意識でやってますから。他人がとやかく言ってるけど、好きな子のために俺は頑張ってるんだって。
西野 あれおもしろいですよね、握手券っていうのは。僕らがキャバクラ嬢にシャンパン入れるときって、おまえのためを思ってやってるんだぞって言いつつも、結局あれって「こんなにやってくれた」っていう自分のポイントを上げてるじゃないですか。握手券も同じように、あれって自分のポイント上げてるんですよね。
──「俺、頑張った!」アピールですよね。
西野 「私はあなたにこれだけ投資した」って、とにかく自分のポイントを上げてるから、あれは第三者がとやかく言うことじゃないですよ。じつは握手券は自分にお金を遣ってる。
──結局、全員が幸せになる行為のはずなんですよね。レコード会社も潤ってアイドル本人も幸せになってファンも満足で。
西野 たしかに。あれ見事な仕組みですよね。恐ろしいですよ、秋元さん。
──いまCDが世界でほぼ消滅に向かっているような状態なのに、日本でだけは売れ続けているのってそこがポイントなわけじゃないですか。本も出版不況の中で新しいやり方を考えていかなきゃいけないのは事実だと思うんですよ。
西野 本って売上げが下がってるんですか?
──もうひどいことになってますよ。知名度のある人だけがなんとか生き残れているような状態で。
西野 なるほど。それもおもしろいですけどね。最近もあの手この手で本を売ってるんですけど、数学みたいにおもしろいです。ただの運だけじゃない感じ、ちゃんと計算したらそれなりの結果が出るっていう。フワフワしたものじゃないから本はおもしろいですよね。
──西野さんのそういうところはすごいなと思う反面、あざといなとも思うんですよ。
西野 ハハハハハ!(手を叩いて喜ぶ) そうなんですけど、でも今回の本は「売る!」って言ってるし、あざといのを全面に出してるんですよ。なぜなら売り方の本なので。
──まずは結果を出さなきゃいけない。
西野 どんな方法を使ってでも売ってやるっていうスイッチが入ってるんですよね。
──だからこそ無駄なケンカの売り方するじゃないですか、文藝春秋に対して。
西野 いや、あれは文藝春秋の社長さんが図書館に文庫本の貸し出しを止めて欲しいっていう要請を出されたんですよね。あのコメント聞いたとき、「やった!」と思いましたもん。
──ホント最近そんなことばっかりやってますよね、「これはネタにできる!」みたいな発想で(笑)。
西野 (手を叩きながら)「シメた!」と思って。しかも、いいタイミングで来たって思っちゃったんですよね、たしかに。
──これは宣伝に使えるっていう発想で。
西野 そう思っちゃいました。それも言ってるんです、ブログでも「これは完全に宣伝です」って。宣伝に使えると思っちゃったんですよね。テレビCMとか渋谷の看板を買うよりは全国の図書館に寄贈したほうが広告効果があるっていう。
──ただ、微妙に話をズラしてるじゃないですか。出版不況なんだから単価の安い文庫の貸し出しまではやめてくれってだけの話だったはずなのに、西野さんがそこで「図書館は本の売上に貢献していると証明します!」と言い出して自分の本を全国の図書館に寄贈するのって、話をズラして自分の有利に持っていっている気がするんですよ。
西野 (手を叩きながら)ハハハハハハハハ! たしかにズレてるんですよ。でも、いいじゃないですか。なぜなら売るっていうことを言ってるから。こういう広告もあるぞっていうのをどんどん出していこうと思って。今回に関してはちょっと大目に見てって思ってるんです。たしかにズレてるんですけど、売りたいんですよね。
──この前、見城徹さんのAbema TVの『徹の部屋』という番組に西野さんが出たときも観ましたけど、見城さんとも意見はまったく合ってないっぽいですよね。
西野 そうですね。あのときは僕と堀江(貴文)さん、見城さんでパッカリ割れたんですよ。見城さんは本はいま売れないって言ってて。
──幻冬舎のボスだから、そこはよくわかってますよ。
西野 僕と堀江さんは本は売れるっていうところからスタートして。
──要は、売ろうと思えば売れるっていうことですよね。
西野 はい、売ろうと思えば売れる。
本は売ろうと思えば売れるが……
──それはAKB的なやり方というか、それこそ本屋を地道に周ってサイン会をしてみたり、「本は電子書籍で読むから本屋なんか行かないよ」って公言している堀江さんがまずやらなそうなことをやって自分の本を売ったわけじゃないですか。
西野 全国300店舗ぐらい回ったって言ってましたね。だから本が売れないって出版の人が言うの、ちょっと早すぎないかと思ったんですよ。堀江さんとか見てると、毎日毎日あの手この手で、それこそ300店舗も回ったりだとか、あれやこれや試してるなか、たしかに本は売りにくくはなってると思うんですけど、売れないって結論を出すの早すぎないかと思っちゃうんですよね。
──CDを違うやり方でちゃんと売る人たちが出てきたみたいに、本の売り方も考えるべきだよねっていうことですね。
西野 はい!
──たしかにそれはそうだと思うんですよ。ボクの師匠のリリー・フランキーさんが10年ちょっと前に『東京タワー』を200万部売ったのって、死ぬほどサイン会やったせいでもあるんですよ。
西野 そうなんですか!
──お母さんのことを書いた大切な本だから絶対に売りたいっていうことで、異常なぐらいサイン会をやってた時期があって。
西野 へぇーっ!
──その結果、ちゃんと本は売れたんだけどサイン会で疲れ切って新作をまったく書かなくなるっていう流れになって(笑)。
西野 ハハハハハハハハ! なるほど。あれは、その裏でそれだけやって売りにいったってことなんですか。
──本気で売りにいってました。
西野 だから本気で売ろうと思ったら売れるんですよね。
──ただし、それはリリーさんなりホリエモンなり西野さんみたいな知名度のある人が地道なことをやったら、みんな会いに来るってことだと思うんですよ。
西野 はい、たしかに。タレントさんとかやろうと思ったら全然ありそうですよね。
──そういう人がちゃんとやれば。
西野 なるほどなあ、それはおもしろいですね。
知名度や信用のアドバンテージは自分で作った
──だから、『革命のファンファーレ』はおもしろい本だとは思うんですけど、ひとつだけモヤモヤするのがそこで。
西野 なんすか?
──いろんな画期的な提案をする本だと思うんですけど、それは西野さんだから成立してる部分がものすごく多い。
西野 そうなんですよね。
──テレビ的な知名度プラス、炎上なりで得た知名度とか地道に稼いだ信用と、圧倒的な資金力と行動力がある人がやって成功したことについて書いた本だから、これを読んで「俺もやってみよう!」と思ってそのまま乗っかっても、その人はそこまでの宣伝力もないし……。
西野 それは無理っすよね、いきなりは無理っす。
──だから、これを読んだ人が真似をすればするほど西野さんだけが得していく本なんじゃないかと思ったりして。
西野 なるほど、じゃあズルいっすね。
──考え方としてはすごくおもしろいし西野さん自身の成功論としては正しいんですけど、すごくズルい本だと思って。
西野 なるほど、みんなができるわけではないです。
──まず信用をどう作るのか、知名度をどう上げていくかって話じゃないですか。
西野 そうなんですよね、それがむずいんですよ。僕、『はねるのトびら』があったもんなー。
──西野さんは地上波をうまく利用しましたからね。
西野 たしかにおっしゃるとおり、むずいっすよねー。だから、そのまま真似はできないですよね。でも、どっかにできることはあるんじゃないですか、全部が全部は無理ですけど。べつに僕も真似してほしいとも思ってないし、僕はこうやって本を売りましたよっていうだけの話なんで。たしかに真似は無理っすよね。でも頑張りましたよ!
──頑張ってるのはわかりますよ!
西野 いきなりキングコング西野として生まれたわけではないので。キングコング西野になるまでけっこう頑張りましたよ。
──エリートコースを進んできたように思われてるけど。
西野 はい、そこもけっこう頑張りました。だからアドバンテージは自分で作ったって話です。いきなり授かったものではない。でも、たしかに真似は難しいかもしれないですね。
プロフィール
芸人
西野亮廣
西野亮廣(にしのあきひろ):1980年、兵庫県出身。1999年に梶原雄太とお笑いコンビ「キングコング」を結成し、『はねるのトびら』などに出演。独演会の開催、イベントのプロデュース、本の執筆など、個人としての活動も盛んに行なっている。2016年に発表した絵本『えんとつ町のプペル』(幻冬舎)は、ネット上での無料公開などの手法が賛否両論を呼びつつ、大ヒットを記録。最新刊『革命のファンファーレ 現代のお金と広告』(幻冬舎)では、そうした西野自身の体験から導き出された成功するためのノウハウが明かされている。
プロフィール
プロインタビュアー
吉田豪
吉田豪(よしだごう):1970年、東京都出身。プロ書評家、プロインタビュアー、ライター。徹底した事前調査をもとにしたインタビューに定評があり、『男気万字固め』、『人間コク宝』シリーズなどインタビュー集を多数手がけ、コラム集『聞き出す力』『続 聞き出す力』も話題に。新刊『吉田豪の“最狂”全女伝説 女子プロレスラー・インタビュー集』が発売中。
(取材・文/吉田豪)