やくみつるの「シネマ小言主義」 動物園の地下でユダヤ人を守った女性の物語 『ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命』 (1/2ページ)

週刊実話

やくみつるの「シネマ小言主義」 動物園の地下でユダヤ人を守った女性の物語 『ユダヤ人を救った動物園 アントニーナが愛した命』

 繰り返し描かれるナチスによるユダヤ人迫害の歴史。正直、「また?」と思ってしまうほどお馴染みのテーマですが、本作は凡百のナチものとは一線を画す秀作です。
 ドイツ占領下のポーランド・ワルシャワで動物園を営む夫婦が、ナチスに追われたユダヤ人約300人を動物園の地下にかくまって命を救ったという実話が基になっています。

 私はそんな動物園があったこと、そして戦火を越えて今なお存続しているのをまったく知りませんでした。
 ユダヤ人を救ったとして映画にもなったオスカー・シンドラーや、日本人外交官の杉原千畝に比べると人数は少ないものの、1人でもかくまっていたことがバレると自分や家族の命が危ないのですから、映画を見ているこちらはヒヤヒヤして目が離せません。

 ドイツ軍によって動物園も爆撃を受け、駐屯した軍人に何のためらいもなく撃ち殺されていく動物たちと、ゲットーという収容地区の中に閉じ込められ、尊厳も命も簡単に奪われていくユダヤ人たちが呼応し、ますます恐怖心が煽られます。
 いつ何時、暴走するか予想がつかない隣国がいる現在、自分たちもナチスを過去の負の歴史と割り切れない時代に生きているんだ…という恐怖でヒリヒリしてしまいました。
 一方、歴史に基づいたドラマでありながら、極めて今日的なテーマを描いた映画であることが説教臭くなく差し迫ってくるのは、この女性監督の手腕なのでしょう。ゲットーが焼き払われる際の降灰の様子、何も知らぬまま収容所へ送られるユダヤ人の子供たちを「貨車」に乗せるシーンも切ない。
 地味な映画ではありますが、このコラムを読んでしまったあなた、ぜひ映画館に出向いて見ていただきたいと強くおすすめします。

 それにしても印象的なのは、主人公のアントニーナのエレガントな衣装。象のお産を手伝う時も、戦時下でも、ハイヒールとブラウス、スカートなど、どれもが素敵で見とれてしまいます。
 でも決して、着飾るのが好きなオシャレさんというのではなく、暗い時代に飲み込まれまいとする彼女の、まっすぐな気概と包み込むような母性を表している気がして見事でした。

 この映画を一緒に見たカミさんは、「アウシュビッツは行ったことがあるが、この動物園の存在は知らなかった。

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