高校球児たちが演劇部に!? 実話に基づく青春映画
配給/パンドラ 渋谷ユーロスペースほかにて2月24日から全国公開中
監督/中川節夫
出演/渡辺祐太朗、舟津大地、林遣都、宇梶剛士、宮崎美子ほか
ボクもローティーンのころ地元の野球チームに属する“野球小僧”だったので、“野球部もの”はついつい見てしまうね。それもあまり熱血なのはノー・サンキューで、多少“脱力”している方が今となってはうれしい。1月公開の『ちょっとまて野球部!』なんか、部員がバカばっかりで、あまりの脱力ぶりに苦笑させられたが…。
その点、この映画は、マジメな社会派作品を作り続けているベテラン監督・中川節夫のメガホンだし、主人公の高校球児たちは真剣に甲子園を目指しているので、脱力より熱血度が勝っている。とはいえ、よくある“スポ根もの”ではない。何しろ、大事な時期に中心選手たち3人(渡辺祐太朗、舟津大地、川籠石駿平)を演劇部に“貸し出し”するという暴挙に近いことを野球部監督(宇梶剛士)がやってしまうのだから。おまけに実話に基づくというから二度ビックリして、“元野球少年”としては興味も湧いた。
「野球だけの人間になるな」
演劇部の事情は、男性部員がほとんどいないため、それもボクシングに賭ける青春を描く芝居なので、どうしても体育系の若者の鍛え抜かれた身体がビジュアル的にも必要だったわけだ。かなり強引に、狡猾にこの前代未聞の“野球部員貸し出し”を画策する演劇部顧問を演じる宮崎美子の利口さ、チャッカリさがオカシイ。さすが、テレビのクイズ番組の“女王”だけのことはある? 対照的に宇梶が、宮崎にうまく使われる憎めないオッサンぶりを見せている。
強引に貸し出された野球部員たちは戸惑い、演劇部員たちも不満がバクハツ、空中分解寸前だったが、演劇部OB(林遣都)が指導に現れ、反発し合う中で何かが変わり始める…。「野球だけの人間になるな」「異種の者たちが協力すれば何かが生まれる」といった真っ当なメッセージがすんなり受け止められる内容になっている。
ユーモアも淡い恋愛も忘れずに描かれ、青春ストーリーとして爽やかな作品となった。演劇部唯一の男子部員で、おとなしくて対人が苦手だった若者が成長するエピソードも“ちょっといい話”だ。
実話の舞台となった福岡県八女市でロケされ、市や市民も全面協力のいわゆる“ご当地映画”としてはヒネリもあるし妙味のある作品となった。唯一、“元野球少年”としては、冒頭で痛恨のエラー負けをする試合での野球のセオリーに少し疑問が残ったが、まあそれは些細なことだろう。