やくみつるの「シネマ小言主義」 決して他人事ではない「愛なき世界」 『ラブレス』 (1/2ページ)
この映画の舞台は、暗く冷たい冬のロシア。しかし、我々の持つ旧ソ連のイメージを軽く裏切るほど、小洒落た内装のアパートで、男女の不毛な罵り合いが繰り広げられます。
2人はロシアの富裕層の夫婦で、お互いに愛想を尽かしてW不倫しているだけでなく、彼らの間にできた12歳の息子アレクセイまでも愛することができず、離婚後、どちらが引き取るかで揉めて、押しつけ合っています。
くる日もくる日も続く両親の激しい口論を、耳をふさぎながら涙を流して聞いているアレクセイ。そしてある日、アレクセイが行方不明に…。
それぞれの恋人とのデートで家を留守にしていた両親は、学校から不登校の連絡が来るまで、息子が2日間帰宅していなかったことに気付きません。慌てて警察に連絡するも、他の事件で忙しいからとまともに取り合ってくれません。
唯一の救いは、行方不明者や危険に陥った人々を捜索する非営利のボランティア団体でした。プロはだしのノウハウを持ち、地道な人海戦術で捜してくれる団体は実際に存在するそうです。
…とまあ、見ているこっちがやりきれなくなるほど絶望的なストーリーが続き、この監督、もっと他に描きたいことなかったのかと思ってしまいます。
が、見終わってしまえば、自分の家庭はもちろん、どこの夫婦だって惰性で続いているのは間違いなく、果たして誰がこの「ラブレス=愛なき世界」を、暗いロシアの話だと上から目線で見られるでしょうか。日本なら北斗晶と佐々木健介の夫婦だけなのじゃないの?
この普遍的な主題を、冷めた画像で問いかけていることにハタと気付かされ、さらに暗うつとした気持ちになりました。カンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞するのも納得の、相当に手練の監督であることに間違いありません。
ウクライナやベラルーシといった旧ソ連領には、これまでに何度か訪れていて嫌いじゃありません。そこでは本作の夫婦が住んでいるような、おそらくソ連時代に建ったであろう巨大な公営住宅群が林立する風景をよく目にしましたね。日本と違い、カーテンがつけられている窓が少なく、白熱灯の黄色い明かりがよく見えたことを覚えています。