本好きリビドー(199) (1/2ページ)
◎快楽の1冊
『愛蔵版 角栄一代』 小林吉弥 セブン&アイ出版 1300円(本体価格)
開口一番“マーコノー…”と声色を使えばそれだけで笑いが来た田中角栄のものまねは演芸の世界ではすっかり廃れてしまったが、ここ近年の出版界で角栄再評価ブームの波が静まる気配はみえない。
ベストセラーとなった石原慎太郎の『天才』(まさか角栄の一人称で語られる小説とは。構造的には大川隆法の“守護霊”シリーズと同じイタコ的手法)はもちろん、「角栄100の金言」やら「角栄に学ぶ決断力と行動力」云々のタイトルは書店の店頭で引きも切らず。とはいえさすがに呆れたのが一昨年だったかの『文藝春秋』の特集で“日本には田中角栄が必要だ”。40年前、おたくで金脈問題追及の火の手が上がればこそ、首相退陣への道が開かれたはずじゃなかったっけと突っ込みたくなるがこの際見逃そう。
平成以降の生まれならいざ知らず、貧しい環境から徒手空拳で立身出世というあまりにも「太閤記」的な人生(天下を取ったあとの暗い影の差し方に至るまで秀吉に酷似)は昭和世代なら嫌でも親近感を覚えざるを得ない。
“第一声の入り方、絶妙な「間」の取り方、比喩、例え話をふんだんに織り交ぜて笑いを誘いつつ、突然トーンを変えて説得力ある数字の速射砲を浴びせ掛け、現実を突き付けて聴衆の目を醒ます。また、時に「情」を編み込んでシンミリさせ、そこへ今度はどでかい夢を投げ掛ける。その上で、結びはビシッと押さえる”―著者の描く角栄の演説テクニックは講談や浪曲とは違うが、やはり人心を鷲掴む一流の話芸なのだと納得しつつ、今叫ばれる地方創生にせよ「日本列島改造論」の遠い谺と合点がゆけば、改めて忘れてもいい過去の政治家では絶対ない。
田中角栄を考える上で欠くべからざる基本書だ。
(居島一平/芸人)
【昇天の1冊】
男と女の間に起きた39の事件の経緯と、被害者がどのような被害を受け、被告がどう裁かれたかの公判までをつぶさに記録した1冊が『男と女の性犯罪実録調書』(鉄人社/680円+税)である。
扱うテーマが性犯罪だけに“鬼畜”の所業ともいえるおぞましい事件が少なくない。一読すると多いのはやはりストーカーだ。