毎年14,000kmの距離を飛んで会いに来る。飛べない彼女への愛を貫き16年。コウノトリカップルの純愛物語
クロアチア東部、ボスニア・ヘルツェゴビナとの国境沿いに、スラヴォンスキ・ブロッドという町がある。コウノトリのマレナは、この町の郊外で暮らしている。翼を傷めていて、飛ぶことができないのだ。
マレナを保護しているのは、71歳になるスティエパン・ヴォーキッチさんである。3人の息子はそれぞれ遠くへ巣立ち、妻とは死に別れたため、現在は一人暮らしだ。
25年前、まだ幼いマレナは翼に銃弾を受け動けない状態だった。それを発見したヴォーキッチさんはマレナを保護し、甲斐甲斐しく面倒をみている。
もう二度と飛ぶことは叶わないマレナだが、彼女を見初めたオスが現れた。クレペタンはその愛を貫き、毎春1ヶ月をかけ、14,000km以上の距離を越えて帰ってくる。
コウノトリは渡り鳥なのでずっと一緒にいることはできないが、この通い婚は16年も続いているという。
・飛べなくなったコウノトリ
1993年、25年前のことである。スティエパンさんは、お気に入りの釣り場での一ヶ所で、まだ若いマレナを発見した。マレナはケガをしていて動けなかった。翼に銃弾を受けていたのだ。
スティエパンさんはマレナを連れ帰って保護した。献身的な看病で健康を取り戻したマレナだが、残念ながら飛べるようにはならなかったのだ。
スティエパンさんはマレナが冬を過ごす倉庫を十分に暖め、水槽と巣を入れた。マレナはここで「人間のお父さん」と一緒に冬を過ごすのである。
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スティエパンさんはここでマレナに定期的に水浴をさせる。脚には保湿クリームを塗ってあげる。そしてマレナが寂しくないよう、一緒にコウノトリのドキュメンタリー番組を見る。
「そのまま放っておけば、遠からずキツネか何かに食われていたことでしょう」とスティエパンさん。
「私が保護したことで彼女の運命を変えてしまった。ですから、私はマレナの人生に責任があるのです」
・飛べないマレナにも恋の相手ができた
保護されてから9年がたった。飛べないマレナにもつがいの相手ができた。
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クレペタンと名付けられたそのオスは、脚につけられた追跡システムによると、南アフリカ、ケープタウンの近くの湿地で北半球の冬に当たる時期を過ごしている。
そして毎春、1ヶ月をかけ、14,000km以上の距離を越えて帰ってくるのだ。
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無事に再会した二羽は、夏の間に、スティエパンさんの手も借りつつヒナを育てるのである。スティエパンさんは毎日30kmの距離を釣りに行き、コウノトリ一家のために小さな魚を20匹以上釣ってくるのだ。
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クレペタンは自分で魚を捕りには行かないという。しかし、遊んでいるわけではない。ヒナたちに飛び方を教えるという大仕事があるのだ。こればかりはスティエパンさんが代わることはできない。
「私は自分の子どもたちを育てました。だから、マレナにもそうしてほしいのです」
クレペタンの「通い婚」はもう16年続いており、巣立った雛の数は60羽を超えている。
A stork love story
・秋の別れと春の再会
ヒナの成長は早く、孵って2ヶ月もすると渡りができるくらいに成長し、アフリカを目指して飛び立つ。クレペタンはさらに2ヶ月をマレナと共に過ごし、秋になるとしばしの別れを告げ、子どもたちの後を追うのだ。
だが、旅立つクレペタンにとっても、残されるマレナにとっても、別れの時はつらい。スティエパンさんによると、マレナは「あなたは早く旅立って。私は行かれないから」とでも言っているようなそぶりを見せるという。
するとクレペタンは屋根に上がり、マレナのことを見ようとしなくなる。そうして2、3日過ごした後、マレナが生きていることを確認して、アフリカへと旅立っていくのだ。
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残されたマレナは10日間ほど嘆き悲しんでいるという。
そこで、スティエパンさんはマレナを釣りに連れて行き、気持ちを切り替えてやるのだ。そうして、一人と一羽で共に冬を越せるようになるのだそうだ。
「アフリカに連れて行くことはできませんが、釣りになら連れて行けますからね」
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そして翌春のクレプタンの帰りを待つのである。クレペタンの帰還は、マレナにとってはもちろん、スティエパンさんにとっても喜びだ。
「息子の一人が帰ってきたような気がするんですよ」
The man who adopted a stork - BBC Travel Show
References: Oddity Central / YouTube など / written by K.Y.K. / edited by parumo