【小説】国芳になる日まで 〜吉原花魁と歌川国芳の恋〜第5話 (3/4ページ)
無論好んで訪れる客は居ない。何かの拍子に誤って近付いて、恐れおののき逃げ出す客を蹴ころばすようにして床に引きずり込むから蹴ころという。
「まさか。よく分かんねえけど、どっかの見世の花魁って言ってた」
「いやもう、この際だから真剣に言うけど、吉原花魁なんざやめとけって。芳さんには土台無理だよ」
佐吉が手をひらひらさせながら言うと、国芳は鼻を膨らませて反駁した。
「いや、わっちゃあ本気だ」
「そんなら、北斎とどっちが好き?」
「北・・・・・・花魁!」
「ふうん、初めて芳さんの中で女が北斎を上回ったな。それほど本気なのか。そんなら名前を言ってみねえな」
「名は、・・・・・・」
国芳は急に少年のように頬を染めて俯き、そっと言った。
「おみつってんだ」
「なんでえ、そりゃ本名じゃねえか。源氏名は」
「分からねえ」
「あんだい芳さん。そんじゃ探しようもねえや」
「あ、でも、見世は京町一丁目の岡本屋だった」
「やあ、そりゃ驚き桃の木だな。京町一丁目の岡本屋っちゃア、中々間口の広い見世だぜ。半籬(はんまがき)の花魁とあっちゃ、やっぱり芳さんには無理だ。とっとと諦めて相応のとこにするこった」
「嫌だ。わっちゃあ惚れたんだ」
「そうは言ってもよ」、
佐吉は言いにくそうに口を開いた。
