「組織に呑みこまれる怖さを書かずにはいられなかった」 “社畜”精神から生まれた新時代の仕事小説とは? (4/4ページ)

新刊JP

他にテレビ番組だと「SWITCHインタビュー 達人達」の星野リゾート代表の星野佳路さんのお話は大好きです。スタジオ・ジブリの後継者問題を追ったドキュメンタリーも見ます。

そういう影響もあって、「成功譚よりも、失敗したケースから学ぶことのほうが大きい」ということをマーケティングプランナー時代に覚えていたんです。だから、基本的にこの物語の中で主人公たちは大きな成功をおさめてないんですよ。最後も成功ではないし。

――なるほど。確かに派手な失敗はしていないですが、成功とは言い切れない。

朱野:そうです。そもそも結衣たちが受け持つことになったプロジェクト自体に無理があったわけですからね。

――途中で、あんなに頑なに定時退社を守っていた結衣が揺れ始めますよね。そこは大きな転換点だと思いました。

朱野:結衣がだんだんと自分を誤魔化し始めますよね。『男はつらいよ』の寅さんだったり、『おじゃる丸』のおじゃる丸だったり、絶対に自分を崩さない主人公もいますけど、私自身、組織に呑みこまれてしまう怖さを知っていたので、そこは書かずにはいられないところでした。

――組織に呑みこまれてしまう怖さですか。

朱野:私が見た「インパール作戦」のドキュメンタリー番組って、実は25年前に放送されたものの再放送で、当時のアナウンサーが「組織というものを今一度考える必要がある」と語っていたんです。

つまり、「インパール作戦」が突きつけた課題を、日本の組織はずっとクリアできなかった。今もそうですし、これからも組織の課題として常に私たちの頭を悩ませて行くことなのかなと思いますね。

――物語の中に「制度によって人は変わらない」という言葉が出てきますが、まさにそうですね。

朱野:そうなんですよ。以前、人事部同士の対談記事を読んだときに「自分たちは頑張って残業を減らそうとしているけれど、従業員が帰らないんだ」と言っていたんですね。それってすごく面白いなと思ってしまって。

「働き方改革」って言いますけど、なぜ働き方を改善するかというと、より良いビジネスをするためですよね。どうすれば社員が短時間で大きなパフォーマンスを出せるようにするかは、経営層が考えなくてはいけない。でも、今って「働き方」が個人の生き方に結び付いていて、個人が考えて「早く帰る」という話になってしまっていると思います。

でも、それだと何も変わらなくて、個々人が背負ってきた人生や、持っているポリシーがただぶつかり合うだけで、収集つかなくなっていくのは当然です。

後編に続く

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