「死んだ」と思われた16歳の少年は、ギャング団から抜け出すために一人で国境を越えた (2/3ページ)

新刊JP

ところが、父親は殺されてしまう。おそらくは麻薬密売の縄張り争いで殺されたのだろう。言葉にならない悲しみ、憎しみを覚えたアンドレスは「敵を討ちたい」と思うようになり、中学生になると“半ば強制的に”「バトス・ロコス」というマラス(若者ギャング団)に入ることになる。

最初は縄張りの見張り役(プンテーロという)だったが、少しずつ仕事の幅は広がる。販売用のマリファナの仕分け、「家賃」(いわゆるみかじめ料)の取り立てなどを経て、ついに銃を渡される。「ひとり、殺さなきゃいけない」。見習いの下っ端から、正式なメンバー昇格する儀式である。

どんなに嫌だと思っても、サン・ペドロ・スーラのリベラ・エルナンデスという地区しか知らない16歳の少年に断る余地はなかった。もし断れば、自分が死ぬことになる。逃げ出すにしても、どこへ逃げればいい? 悩みに悩むアンドレスだが、選択肢はなかった。

と、そこで事件が起こる。自分を育ててくれた祖父母の家でぼんやり外をながめていると、敵のマラスのメンバーで、普段からアンドレスと瓜二つだといわれていた少年が偶然家の前で撃たれて死んだ。そして、近所の人たちが集まって、「チェレ(アンドレスのニックネーム)が殺された!」と叫び始めたのである。

「死んだ」と勘違いされたのはアンドレスにとっては大きな幸運だった。
警察が現場検証をやっている間、バトス・ロゴスはこの地区に近づけなくなる。その上、自分は死んだと思われている。死んだ人間を追ってはこないだろう。でも、どこへ逃げる? バトス・ロゴスのいない場所へ。アンドレスはお金を集めて、一人、ホンジュラスとグアテマラの国境へと向かった。

ここまでがこの本の前半部分である。かなり乱暴にまとめてしまったが、アンドレスの言葉は一つ一つが重い。父親が殺され、自分が敵を打とうとするアンドレスの心は、言葉だけならば格好の良く感じるかも知れないが、憎しみが憎しみを生むという負の連鎖に過ぎない。

マラスの下っ端として活動をする中で、彼は次第に迷いを抱えるようになる。「本当にこれでいいのか」という迷いだ。でも、その迷いを肯定してくれるものはなかった。
日本に生きる私たちは「迷い」をネガティブなものと受け取りがちだ。

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