「死んだ」と思われた16歳の少年は、ギャング団から抜け出すために一人で国境を越えた (3/3ページ)
しかし、「迷い」は選択肢があるからこそ生まれるものである。アンドレスの場合、迷いを感じても他に選択肢がないため――他の選択肢を与えてもらえなかった、とも言えるだろうが――マラスに居続けるほかなかったのだ。
「迷い」があることは健全なことである。「迷った時に別の選択をしても大丈夫」という環境があるからこそ、自由に迷えるのだから。
では、彼が置かれた状況の中で、別の選択肢を持たせるにはどうすればいいのだろうか? そんなことをアンドレスの言葉は考えさせてくれる。
アンドレスはその後、メキシコで難民認定を受けて、そこで暮らしている。彼の逃避行はロードムービー的な要素も入り交じっているが、もちろん気楽なものではなく、過酷だ。連れ戻されたら一巻の終わりである。
今でもマラス時代のおぞましい殺人や拷問の風景を夢で見てうなされることがあるという。それでもアンドレスは、数ある選択肢を手にしてその中で自分の生きる道を見つけ、前に進もうと努力をしている。
人が前向きになるには、安心できる未来があるからこそだ。選択肢がない世界に希望は生まれない。ホンジュラスから遠く離れたこの日本に、希望はあるだろうか? アンドレスの言葉がただ胸に響いてくる。
(金井元貴/新刊JP編集部)