「私にはエッチの才能がないの」性に苦悩する夫婦を描いた秀作『追想』

まいじつ

「私にはエッチの才能がないの」性に苦悩する夫婦を描いた秀作『追想』

映画評論家・秋本鉄次のシネマ道『追想』

配給/東北新社 8月10日より日比谷TOHOシネマズシャンテほかにて公開
監督/ドミニク・クック
出演/シアーシャ・ローナン、ビリー・ハウルほか

近年、『ブルックリン』(15年)、『レディ・バード』(17年)などで売れっ子の若手女優シアーシャ・ローナンの最新作。彼女は、少し時代遅れの多感なヒロインを演じさせたら当代一で、その華奢ではかなげな個性は、日本で言えば“昭和”が似合いそうなタイプだ(最近の日本の女優で言えば、黒木華とか、木村文乃とかだろうか)。

バリバリの現代というより、数十年前の近過去を舞台にした作品が多く、この作品もザ・ビートルズが台頭する直前の62年、まだ若い男女も保守的な意識にとらわれていたイギリスが舞台だ。平たく言えば、“婚前交渉”なんてとんでもない、せいぜいキスまで、の風潮が当たり前だったころの話で、新婚初夜に破綻してしまう若い女性を演じる。まさに適役かも知れない。

保守的な時代がゆえのつまずき

恋に落ち、ゴールインしたバイオリニストを目指すフローレンス(シアーシャ・ローナン)と歴史学者を目指すエドワード(ビリー・ハウル)は、結婚式を終え、新婚旅行先のチェジル・ビーチへと到着する。ホテルで幸福の絶頂を迎えるはずだったが、新婚初夜につまずいてしまう…。

イギリスの著名作家、イアン・マーキューアンの原作の映画化で、邦訳のタイトルが『初夜』と生々しい。映画化のこの邦題は過去の作品を連想させるが、当然関連はないので、念のため。

さて、そのつまずきとはセックスの問題だ。性体験のないまま初夜を迎える妻が性の指南書を“一夜漬け”で読んだりするが、本人は真剣なので笑ってはいけない。彼女の不安は、いざ“床入り”となり、一応経験はあると言いながらもぎこちなく、焦りを見せる新郎相手に募るばかり。このぎこちない“初夜”の一部始終の描写が結構念入りであからさま。ぎこちないキス、アソコに手を入れての愛撫も逆効果…それでも、ついに結ばれるかと思いきや、新郎が上になってもうまくいかない。いわゆる“ふたこすり半”でイッてしまい、彼女の太ももにザーメンがかかり、彼女は“気持ち悪い”と嫌悪をあらわにする。「私にはセックスの才能がないの」というセリフにもドッキリ。やがて、2人は口論となり、むなしく破綻…。

“成田離婚”みたいな話だろ、と言やあ身もフタもないが、若い2人はどこで間違ったのか? その後の時代の2人も見据えた構成が巧みだ。半世紀も前の保守的な時代の産物ではあっても、性に対する保守化傾向が見られる近年の若い世代をも照らす映画となった。

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