蕎麦のざる・もりの違いは?「せいろ」はなぜ上げ底?蕎麦の歴史をおさらい

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蕎麦のざる・もりの違いは?「せいろ」はなぜ上げ底?蕎麦の歴史をおさらい

江戸時代、庶民の軽食として愛された蕎麦。今でも昼食に居酒屋代わりにと、関東では愛されてますね。

しかし、意地汚い話しですが、蒸籠にのった蕎麦は一枚だと物足りないな~…と思うのも事実。箸を入れるとすぐに底に当たってしまいます。そもそも、なんでこんなに少ないんでしょう?

飢饉が発端

江戸時代にたびたび起こった大飢饉。そのたびに幕府により改革が行われ、物価の規制が行われていました。

天保の改革では、一例として寛政三年(一七九一)八月十六日に豆腐一丁につき三十八文というお達しがありました。また物価統制だけではなく、飢饉により田畑を捨てた農家が増えたため、米の作付けを増やすため他の穀物の作付けを禁じることもありました。

様々な商品の値下げを命じられるものですから、商売人たちは利益が出ずに苦しかったようです。

蕎麦業者たちは1830年代(天保年間)に、幕府に蕎麦の値上げを願いましたが許可されませんでした。しかし、「値上げは駄目だが量を減らして売ることはよい」という、実質的な値上げ許可はもらいました。
そこで、三割近く量を減らすことにしたのですが、それですとあからさま過ぎるので、蒸籠の底を上げて今までと同じような見た目に盛ったということです。※諸説あります。

ちなみに一枚は約80~100グラム。そのため「江戸の蕎麦は三箸半」という粋な言葉が生まれ、現在まで受け継がれているのです。ちなみにこれは江戸での話であり、長野など蕎麦の産地ではまた事情が違っていたようです。

そもそもなぜ器が蒸籠?

そもそも、麺状の蕎麦は後から造られたもので、最初は蕎麦と言えば「蕎麦がき」という団子上の練り物でした。麺状の蕎麦は、1643年(寛永20年)の「料理物語」という料理本に登場します。

当時は蕎麦粉100%で作るため、茹でるとすぐにちぎれてしまうため、蒸籠で蒸して提供していたということです。しかも蒸す食材のため、当初の蕎麦がきはお菓子やさんで提供していたそうです。また、当時は濃い口醤油が発明されていなかったため、現在のようなめんつゆではなく、味噌をこしたものに鰹節など薬味を混ぜたものにつけて食べていました。

現在では蒸すことはなくなりましたが、今でも蕎麦を蒸籠の器に乗せ「せいろ」という品名で提供している店も多いですね。

つなぎに小麦粉を遣うようになって麺が茹でやすくなり、蕎麦は麺状になりました。「蕎麦切り」と呼ばれる軽食としての爆発的に普及します。

江戸の屋台名物「二八蕎麦」は、享保年間(1716~36)に登場。その頃の蕎麦1人前の値段は16文と幕府に決められていたので、二×八で16文とする、という説が専ら有名ですが、小麦粉粉二割り、蕎麦粉八割りで二八蕎麦という説もありますね。

ちなみに16文になるのだったら他の数字でもいいじゃないかと思いそうですが、探してみると16になる数は2×8かその逆、4×4しかありません。4×4だと四四(しし)となって縁起が悪いですね。

鬼あざみ清吉(三代歌川豊国画) ざる・もり・かけ

ではざる蕎麦、もり蕎麦、かけ蕎麦の違いは何でしょう。蕎麦の歴史をざっと振り返ってみます。

寛永20年(1643年)…日本初の料理専門書「料理物語」に蕎麦切り登場 元禄時代(1688年頃)…忙しい肉体労働者などが蕎麦に汁をかけ食べ始める(ぶっかけの原型) 享保年間(1716年~)…深川の「伊勢屋」が竹ざるに蕎麦を盛って提供。たちまち評判に(ざる蕎麦の誕生) 寛延4年(1751年)…新材木町(現在の東京都中央区)の「信濃屋」が汁をかけて食べるやり方を「ぶっかけ蕎麦」として売り出す。その後、「ぶっかけ蕎麦」と区別するため、従来の汁につける食べ方を「もり蕎麦」と呼び始める 天保年間(1830年)…蕎麦屋が団結して値上げを願い出たが却下、蒸籠の底上げが始まる 明治以降(1868年~)…もり蕎麦に海苔をふりかける食べ方が登場。そのため、現在も海苔をかけたざる蕎麦を「もり」と呼ぶ店が多い

こうしてみると、蕎麦自体は変わっていませんが器の違いだったりトッピングの違いでバリエーションが増えていったことがわかります。

蕎麦好きとしては、最初から大盛りで食べたいところですが、伸びきってくっつきあった蕎麦を食べるのも野暮というもの。やはりちょっと少ないなと思ったら、もう一枚お代わりするのがスマートなのでしょう。蕎麦のスタイルはこれからも多様化していくことでしょう。末永くお付き合いしていきたいところです。

参考文献:『塩尻』天野信景著 国立国会図書館所蔵、『守貞謾稿』喜田川守貞著、そばの散歩道

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