「敬意なき介護」を変えた 民俗学者の取り組みとは (1/2ページ)

新刊JP

『介護民俗学という希望: 「すまいるほーむ」の物語』(新潮社刊)
『介護民俗学という希望: 「すまいるほーむ」の物語』(新潮社刊)

転職などで異業種・異業界からやってきた人が、業界プロパーでは思いつかなかったアイデアを出して、組織に新しい風を入れることがある。

ただ、どの業界から来た人はどの業界と相性がいい、という傾向はあまりなく、その人の性格による部分も大きいだろう。つまるところ、上記のようなケミストリーが起きるのは偶然の要素が大きい。

『介護民俗学という希望: 「すまいるほーむ」の物語』(新潮社刊)の著者、六車由美さんは大学准教授から介護の世界に「転職」した変わり種。『神、人を喰う――人身御供の民俗学』でサントリー学芸賞を受賞した、れっきとした民俗学者である。

■大学を辞めた教員が介護の現場で得た気づき

民俗学には、老人に話を聞き、昔の人々の暮らしぶりや風俗を口語のまま記録する「聞き書き」という調査方法がある。

大学の教員を辞め、介護の世界に飛び込んだ六車さんは、老人ホームやデイサービスなどの高齢者介護施設が「民俗学の宝庫」であることに気づいたという。利用者は、介護する彼女に子どもの頃のことや社会人として活躍していた頃のことを、表現力豊かに語った。それらには、通常の民俗調査では知りえなかった昔の人々の暮らしについての情報も多々あったようだ。

研究者としての好奇心を刺激された六車さんは、それをその場でメモせずにはいられなくなった。これが、彼女が介護の現場で「聞き書き」を始めたきっかけだったという。

これだけでは、民俗学研究者がこれまで気づかなかった調査対象に気づいたという話でしかない。しかし、六車氏のはじめた聞き書きは、介護の有り方に変化をもたらした。

■聞き書きは「敬意なき介護」を変えるかもしれない

介護の現場での、介護者と被介護者の人間関係は難しい。介護者が知っているのは、被介護者の生年月日や簡単な生活歴のみで、本人がどんな人間なのかを知る手掛かりはほとんどない。

互いをよく知らない者同士が介護し介護されれば、人間関係は固定化する。つまり、介護者にとって被介護者は「援助の対象」でしかなくなってしまう。当然、年長者である相手に尊敬の念は抱きにくい。

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