やってみてわかった作字の難しさ 円城塔、新作『文字渦』を語る(1) (3/3ページ)

新刊JP

――個人的にはテキストファイルの中に溢れる英数字の中の日本語の文字列を海に浮かぶ島になぞらえる「緑字」が斬新で好きです。

円城:僕も好きなんですけど、「何を書いているかわからない」と言われてあまり評判は良くないんです(笑)。

ただ、テキストファイルの仕組みを知っている人はおもしろがってくれるんじゃないかという気持ちはあります。テキストデータに膨大なメタデータがついていて、履歴も管理しているから、テキストを消したり直したりすると勝手に情報が蓄えられていく場合もある。

1文字書き足して、それを消して、ということを繰り返しているだけでもどんどんバイト数が増えるから、結果的に1文字も書いていなくてもワードファイルが重くなってしまうわけです。こういう仕組みを知っている人には「緑字」は想像しやすい話なんじゃないかと思います。

――作品の面白さとは違う次元で、アイデアなどでものすごくコストがかかっている短編集だと感じました。

円城:まあホラ話なので、そこまでではないですよ。ただ、「天書」にある「もんがまえ」のある漢字でできたインベーダーゲームのところは手間がかかりました。小説には間違いも正解もないけれど、パズルやゲームやプログラミングは正しくないとツッコミを入れてくる人がたくさんいるので。

そのインベーダーゲームも、やはりユニコードの本から「もんがまえ」の漢字を引っ張ってきて眺めたり、中国古典アーカイブで調べたりしながら作っています。だから、基本的に検索に頼っている。

「こんなものどうやって作ったのか」とよく聞かれるのですが、電子的手段がないと作れないです。

――「かな」では、紀貫之の和歌「藤の花 あだに散りなば 常盤なる 松にたぐへる かひやなからむ」をアナグラムにして「カムブリア 爆発の時 散る習ひ 何にか学べ 八千畳なはる」という別の和歌を出現させていますね。

円城:あれも同じです。考えたってできるわけがない。紀貫之の歌集を引っ張ってきて手元のパソコンに置いておいて、「か」「む」「ぶ」「り」「あ」の文字が入っている歌を探して、じゃあ次は「ば」「く」「は」「つ」を探して、というふうに探しながら作っていきました。そこはもう手軽なスクリプトがないとできません。アプリも使って辞書で調べて、コードを書きながら作っています。

第二回 ■文字への偏愛と奇想の書『文字渦』を生んだ円城塔の頭の中 につづく

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