私が長編を書かない理由 円城塔、新作『文字渦』を語る(3) (2/3ページ)

円城:全然しません。書く時間も別々ですね。僕は昼間外に出て書くのですが、妻はホラー作家なので「昼間書くと間抜けだ」と言って夜に書くんです。
――喫茶店などで書くんですか?円城:そうですね。人が見ていないと寝てしまうんです。家にいると家事をやってしまったりしますし。
――円城さんが人生で影響を受けた本を3冊ほどご紹介いただきたいです。円城:最近の本なんですけど、アンソニー・ドーアの『すべての見えない光』はショックを受けたというか、すごいなと思いました。
ドーアって多分、いつの時代のどんな主人公でも書けるんです。「ユニバーサル小説マシン」なんじゃないかと思って、ちょっと怖いくらい。『すべての見えない光』は、第二次大戦中のドイツとフランスを舞台に、出会えそうで出会えない少年と少女を書いた作品で、すごく優れた小説なんですけど、ところどころに「あれっ?」というわからなさがあるんですよね。
戦時の少年少女をあそこまでうまく書けるのはすごいんだけど、世界史としてみると「戦争ってこう書いていいんだっけ?」という恐怖感も覚えます。善悪がちょっとわからなくなる感じがある。
――2冊目はいかがですか?円城:2冊目はミルチャ・エリアーデの『ムントゥリャサ通りで』にします。ルーマニアの革命と幻想的宝探しを重ねて書いている小説で、昔から好きなんです。何らかの秘密を知っているおじいさんがいて、子どもたちはそのおじいさんが地下にある秘密の帝国につながっている人なんじゃないかということで追いかけているんだけど、政府は政府で謎の活動をしている怪しい人物として捕まえて、自白を強要させるわけです。
だけどおじいさんは半分呆けているような人だから、供述がめちゃくちゃで、しかもその供述が延々終わらない、という変な話。