危機感。成長の証。これからが勝負。ジャパン×ロシア、接戦終えた両軍の声。

ラグビーリパブリック

後半15分、独走トライを見せた日本代表NO8ツイ ヘンドリック。(撮影/出村謙知)

 来年のワールドカップ初戦の相手であり、ワールドランキングでは日本の11位に対して19位のロシア。負けることのできない相手との戦いは、10-22とリードされて前半を終えながら、何とか32-27で辛勝となった。

 前半から、キックを起点にした攻めと、近場での肉弾戦版に徹するロシア。キックのチェイスから日本へ効果的にプレッシャーをかけて反則を誘い、4分、7分、16分とSOユリー・クシュナレフがPGを決め、0-9とリードを広げる。

 試合後、ロシアのリン・ジョーンズ監督は、「試合を通じてキック戦術は上手くいっていたし、実際にトライにも繋がった。だが、正確性を欠き、日本にチャンスを与えてしまった場面もあった。大事なのは安定感」と両軍ともにキックが多かったこの日の試合を評した。

 スコアにも表れているように、前半についてはロシアのキック戦術がより機能していた。連続して蹴り合う多かった展開。WTB福岡堅樹は、「前半は、キックチェイスが上手く行かなかった」、と振り返った。

 20分には、ロシアのCTBヴラジミール・オストロウシコが中盤でのインターセプトからトライを奪い、ゴールも成功。0-16とリードを広げた。

 その後、日本はSO松田力也のPG、FLリーチ マイケルのロシア陣ゴール前ペナルティからの単独速攻トライなどで点差を詰める。しかし、ロシアもクシュナレフに変わって出場したSOラミル・ガイシンのPGで得点を重ねた。10-22。ロシアリードで前半が終了した。

 前半だけで8つのペナルティを犯し、15点をPGで献上したこの日の日本。PR稲垣啓太は「要所要所でのペナルティに対する危機管理能力に、今日は問題があったと思います。正直できれいなプレーだけでなく、グレーゾーンを攻めるようなプレーも必要だと言っていたのですが、その上での線引きを上手く判断できていなかった」とコメントした。

 この日の日本は、この部分への修正をキッチリとおこなった。後半犯したペナルティは僅かに1つで、試合の流れは確実に変わっていった。

 43分には、日本陣内でロシアのFBワシリー・アルテミエフへ福岡が強烈に間合いを詰めるタックルを見舞い、ターンオーバーを誘発。そのボールからフェーズを重ね、最後は福岡が左隅へトライ。松田のゴールも決まり、17-22と点差を詰める。

 ハーフタイムにはチームに対し、「ペナルティを無くすこと。細かい事を丁寧にやる事。外へ振って勝負を仕掛ける前に、じっくり我慢してフェーズを重ねること。この三つについて話しました」と話したリーチ主将。前半の劣勢を覆す後半の修正力は、チームの地力だ。

 その後、54分にはNO8ツイ ヘンドリックが中盤のラックを抜け出し、独走トライを決めたが、59分にはロシアも反撃する。ガイシンのキックパスを拾ったHOスタニスラフ・セルスキーもトライを決めて24-27と再びリードする。負傷したSOクシュナレフに代わって出場のガイシンは、絶妙なキックを連発。後半に劣勢気味となったロシアを、何とか踏みとどまらせた。

 試合も終盤に入り、両軍ともに交代のカードを切る中、日本は途中出場のSO田村優のPGで27-27の同点(67分)。71分にはロシア陣22メートル内でディフェンスの裏へ田村がゴロパントを転がし、リーチがトライまで持ち込む。32-27とし、日本は辛くも勝利をものにした。

 試合後、ジェイミー・ジョセフ監督は、「ロシアの戦い方は、予想していた通りだったが、前半はペナルティが多く、苦戦した。だが、後半こうして挽回できたのは、このチームの成長の証」と振り返った。

 対するジョーンズ監督は「今日の試合のボールインプレーの時間は35分だったが、ロシアでの試合では27分にも満たず、試合終盤での選手たちの疲労度は、未知の世界。ここで痛いミスをして負ける結果となったが、この世界がこれからこのチームが生きていく世界」と、兼ねてから指摘していた、ゲームフィットネスの欠落を敗因として挙げた。

 ロシアの主将のアルテミエフは、「これから10か月後のワールドカップまでの間に、我々も、日本も、チームとしての完成度はより高まっていく。どちらの方がより進化を遂げるかが、勝負だ」と述べた。

 油断していたという訳ではないだろうが、明らかに格下と思われていた相手に、5点差の辛勝。10か月後の大舞台の初戦までに、ジョセフ監督率いる桜の戦士たちは、どこまで進化を遂げることができるだろうか。

(文/竹鼻智)
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