塚本晋也「時代への不安感がある。僕なりに斬り込まなきゃ……。」斬る人間力 (2/2ページ)

日刊大衆

 今の時代と江戸時代を照らし合わせて、斬れない、というジレンマで苦しむ若者を描く必要があると思いました。

 露骨なエロチックシーンはないけど、匂いみたいなものはある。エロの匂いがするほうが暴力に近いリアル感が醸し出せるから。主演の池松壮亮さん演じる浪人とヒロインの蒼井優さん演じる娘の関係……。

 2人の近づきたいけど近づけないもどかしさは、皆さんがとても官能的だと言ってくださいます。

 子どもが好きな子のことを叩いたりしますけど……あれに近い感じもあります。2人の演技合戦をご覧になってほしい。そこがまず、一番の見どころです。

 そこに僕が演じる澤村という浪人がからみ、事態はどろどろになってゆきます。

 江戸時代は250年間、大きな戦がなかった。その後、ペリーが黒船でやってきて外交を迫り、開国するかいなかで国内で血なまぐさい争いが始まり、やがて大きな戦争となっていく……。今も、戦後70数年の平和な時代が変わろうとしている。僕たちは、どうしたらいいのか? どうするべきなのか? ご覧になった人に想像してもらえたら、と願っています。

 次の作品ですか。『斬、』が自主映画だから、お客さんが来てお金が入らないと、次を考えてはいけないと自分に課しているんです。実は、チョットは考えてはいるんですけどね(笑)。

 戦争映画監督というわけではないので、いろいろな種類の映画を撮りたいのですが、まだ時代への不安感が消えません。まだどうしても僕なりに斬り込まなきゃ、という思いもあります。

 不安から起こる悲鳴を上げないといられなくて作った映画が『斬、』です。思いのたけで作りましたので、ロジカルに脚本を構築したわけではありませんでした。  

 映画はあくまで感覚的なもの。プロパガンダではないので、政治的なメッセージのために物語を作ることはありせん。あくまでも感じてもらうべきものと思っています。次につくる映画も、もちろんそういうものでなければならないと思っています。

 強いものを作ってバシッと投げつけたい。

 まだ、次回作をつくる権利が与えられていないのに、どの口が言うか……ですが(笑)。

塚本晋也(つかもと・しんや)
1960年、東京都渋谷区生まれ。世界的に注目される映画を次々と制作。89年、『鉄男』でローマ国際ファンタスティック映画祭グランプリ。03年、『六月の蛇』でヴェネツィア国際映画祭コントロコレンテ部門審査員特別賞受賞。12年に『KOTOKO』で、ヴェネツィア国際映画祭オリゾンティ賞受賞。15年に『野火』が、ヴェネツィア国際映画祭コンペティション部門選出作品となる。

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