いつでもいいスクラム、いい試合を。明大の武井日向、痛恨の1本を振り返る。 (2/2ページ)
この午後も右PRの祝原涼介が、隣の武井とぴったり身体をつけたまま早大の最前列のつながりを崩していた。だから福田は、ここでもスクラムを押してそのままトライを決め、一気に逆転しようと考えていた。
しかし明大は、失敗する。塊を故意に崩したとして、コラプシングというペナルティを取られる。早大が、賭けに勝ったからだ。
後半11分の早大の賭け。それは「フロントから仕掛けてみよう」だった。
スクラムはFW最前列の3人、中列の2人、最後列の3人による共同作業である。早大も互いのまとまりを確認したうえで相手に対抗しているが、勝負の分かれ目となりうるこのシーンでは部内の経典をあえて無視した格好。PRとHOだけで鋭く刺さり、明大を驚かせようとしたのだ。
4年生の左PRの鶴川達彦が「自分たちの想定以上に低く組まないといけないことがわかったので、そう修正した」と振り返ったこのワンシーンについて、1年生で右PRの小林賢太はより具体的な証言を残す。
「それまでは後ろ(第2、3列)からの押上げをもらってヒットしようと話していたんですけど、あの時はHOの峨家(直也)さんが『フロントから仕掛けてみよう』と。落とせないスクラムだったし」
早大が変化球を投じた結果、常に直球勝負の明大が得点機を逃したわけだ。
武井は「ああいう形で流れを変えられたのは僕たちの責任。次に向けて修正したいと思います」。優勢だったプレーで笛を吹かれたのは本意ではなかろうが、怒りのベクトルは自分たちに向けて改善点を絞り出す。成長するためだ。
「まだまだレフリーとのコミュニケーション、対応ができなかった。集中力、意思統一が甘かったと思います。確かにあの時だけは、ヒットした後のチェイス(全体で足をかく動作)ができていなかった。試合を通して完璧なスクラムを組めていないのは自分たちの課題でもあった。自信はつけていたんですけど、まだまだだった。次につながるスクラムだったと思います」
いつでも理想のスクラムを組んで、いつでも理想の試合をしたい。22年ぶりに大学日本一となるためだ。12月16日、大阪・キンチョウスタジアムで大学選手権3回戦に挑む(対 立命大)。
(文:向 風見也)