「スピリチュアルペイン」ーー自己の存在と意味の消滅から生じる苦痛へのケア (2/5ページ)
付き添っていた看護師は分かっているがとても答えることはできない。谷山さんはスピリチュアルケアの一環として「もう長くないよ。奥さんが迎えに来てくれていい所に連れて行ってくれる。」と答えた。するとEさんは「お願いします。」と谷山さんに握手を求めた。
■死の間際に訪れた家族との関係の変化
死去の3日前にはEさんの娘が訪ねて来た。もう話すことが難しいEさんはノートに「死ぬ、りんじゅう」「さよなら さよなら」と書いてみせた。Eさんはコミュニケーションができるうちに娘にお別れを言いたかったのだ。そのことに谷山さんは気づいていた。しかし娘に真意は伝わらず、娘は「もう帰っていいの?」とEさんに尋ねてしまう。谷山さんはEさんに「他に言うことはないの?親として娘に伝えることはないの?」促すと、患者は自らの口で「今まで、ありがとう」と娘に伝えた。娘は父親の真意を理解し「お父さんの娘でよかった」と涙をみせ、父親の言葉を喜んだ様子だった。谷山さんのレポートにはEさんと娘の関係性はこれまで円満ではなく、これは死を前にした和解であったことが示唆されている。
娘が帰った後にEさんは「死ぬまでのプロセスを教えて欲しい」と谷山さんに頼む。谷山さんはどのように人があの世に旅立つのかを宗教的な側面も含めてEさんに伝えたのだった。
■緩慢な自死の試みから満願成就へ
同じ日、Eさんがひと月ほども故意に食事量を減らしていることが判明する。死期を早めようとしたのだろうか。谷山さんが「死んでから奥さんに怒られるよ。娘さんが用意したメロンぐらい食べていったら?それが愛情ってもんだよ。」と諌めると、Eさんは納得した様子でメロンを一口食べたのだった。翌日にはEさんは声をだして「満願成就」と谷山さんに伝えている。終りが近いことはお互いに分かっており、谷山さんはEさんに思い残しがないことが嬉しかった。Eさんはその二日後にこの世を去った。
■死に向かうスピリチュアルな痛みの正体
Eさんの抱えたような苦しみはスピリチュアルペインとよばれる。これを「自己の存在と意味の消滅から生じる苦痛」と定義する専門家もいる。