「スピリチュアルペイン」ーー自己の存在と意味の消滅から生じる苦痛へのケア (3/5ページ)

心に残る家族葬

人間は過去、現在、未来の連なりから現在の意味を見出しているが、死が迫り将来が消滅すると、私が存在する「現在」の意味がわからなくなる。体が衰弱し無力感や他人へに依存を経験すると、生きている自分を無価値だと思ったり、無意味だと感じるようにもなる。これまで歩んできたはずの「私の思う私」の物語を手放し、別の「将来のない私」を受け入れなければならない。これがスピリチュアルな苦痛、スピリチュアルペインの大きな一側面だ。

■谷山さんのケア

谷山さんとEさんの事例を一読しても、多くの人には谷山さんがスピリチュアルケアの専門家として特別なことをしているようには見えないのではないだろうか。しかし、谷山さんは実は専門家として意図のある関わりをしている。特に谷山さんがEさんの不安に対して「奥さんが迎えに来てくれる」と答えている点がそれにあたる。谷山さんは、経験とそれまでに積み上げられたスピリチュアルケア研究の知見から「お迎えが来る」と考えることがEさんの孤独と不安を軽減することになると考えたのだ。過去にその判断の根拠となりえる「お迎え体験」の社会調査が行われている。

■「お迎え体験」の社会調査

2003年に在宅緩和ケアが専門の医師、岡部健が中心となって行った患者の遺族を対象とした社会調査によって、死期の迫った患者の半数以上がお迎え体験をしていることがわかっている。お迎えに現れるのは仏などよりも身近な死者である場合が多い。また、お迎え体験後は回答者の約65%以上は死を予期して恐れたりはせず、穏やかな様子であったこと報告されている。これら調査分析から専門家らが指摘すたのは、お迎え体験を科学的事実ではない死期の迫った患者のせん妄であるとして無視してはいけないということだった。それは、生前と同じ人格をもつ死者に会うという経験は、死によって「私」が消えてしまうという不安を解消するスピリチュアルケアの作用があるからだ。自分もまた、お迎えに来た死者と同じように「私の人格」が「私」として存在し続けるのだという安らぎになる。また、自分の死を見つめることのできなかった人が、一人ではなく親しい死者に見守られ導かれるのだというイメージを作り、死を受け入れていく礎にもなる。

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