「スピリチュアルペイン」ーー自己の存在と意味の消滅から生じる苦痛へのケア (4/5ページ)

心に残る家族葬



ただし、患者にお迎えについて伝えることには落とし穴もあることも谷山さん氏は指摘している。Eさんが食事を減らし死期を早めようとしたことの背景には、早く亡くなった奥さんに会いたいというEさんの願望があった可能性を否定できなからだ。

■WHOのスピリチュアル

WHOは「スピリチュアルな要素とは人間の生の全体像を形作るものであり、生きている意味や目的についての関心や不安と関わっていることが多い」と説明している。WHOは健康は人権の一部であるとして設立された機関である。つまり、WHOは身体的、精神的、社会的なケアだけでは人の健康の状態として不十分であると考え、「スピリチュアルに満たされる」つまり生死の意味や目的を奪われないことが人間の人権に関わることだと考えているということなのだ。

■闇へ降りていく道標としてースピリチュアルケアの存在意義

お迎え体験の調査をした岡部は、自らががんを患い死期が迫っていることを感じた時、痩せた山の尾根を歩いている気分だったと語ってる。「右の生の世界には、化学療法だ、緩和医療だ、疼痛管理だとか、数え切れないほどの道標が煌々と輝いていた。ところが、反対側の死の世界に降りていく斜面には、黒ぐろとした闇に包まれ、道標がひとつもない。」

体や心の痛みに働きかけるのは「医療」であり、対象は「生」である。しかし死にゆく過程へ向かう時の苦しみへの対処法はわからない。それが岡部の言う「道標がない」ということだ。体の痛みもそれに伴う心の苦しみも、死期迫る人が抱える辛さの一側面ではある。しかし、死んだらどうなるのかという不安や辛さは、それとはまた別の形で存在し、患者はそこから救われたいと願う。「スピリチュアルに満たされる」ことは、死にゆく人の願いを満たすという側面をもっている。
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