社会的な疎外感がテロリズムを生む。それは脳を見れば分かる(英研究)
世界で繰り広げられているテロとの戦いには終わりが見えない。
だが一つ言えるのは、人をテロリズムに走らせる理由を理解しなければ、効果的な対策は立てようもないということだ。
最近行われたテロ組織からの勧誘に弱い人の脳をスキャンした結果によると、現在行われているテロ対策は、むしろ状況を悪化させるだけかもしれないという。
テロリストは信仰心や政治的信条のために戦っていると主張する。だが社会学者は、人をそうした過激な手段へと走らせるのは、熱意ではなく、悲哀なのだと論じてきた。
社会的な疎外感がテロリズムを生み出しているという。
・個人がテロに傾倒するのは社会的疎外感から
これを実証するために、イギリス・ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの研究者らが、テロに走りやすい人の脳をfMRIで検査してみた。
『Frontiers in Psychology』に掲載された発見は、個人がテロに傾倒する理由は社会から受ける疎外感にあるという説を裏付けている。
・バルセロナに住むモロッコ系の人の脳をスキャン
研究チームは、若いモロッコ系バルセロナ市民535名を対象に、イスラム教の教義を広めるために暴力を使うことについてどのように感じているか訊いてみた。
スペイン・カタルーニャ州の州都、バルセロナが選ばれたのは、ヨーロッパのほかの場所に比べて、モロッコ系の人があまり溶け込んでいないからで、本調査の最中もテロ事件が生じていた。
この質問でテロ組織からの誘いに乗りやすいと評価された人38名に、同意を得たうえでその脳の脳波測定を実施することにした。
脳波測定に先立って、社会的排斥を調べる際によく利用される「サイバーボール課題」というキャッチボールのようなテレビゲームを彼らにプレイしてもらった。
このとき、被験者の半数には、本人としてではなく、スペイン風の名前と容姿を持つアバターでプレイしてもらった。これは被験者に疎外感を与えるためのものだ。
それから、さらに追加の質問を尋ねつつ、その間の脳波を測定した。
・疎外感を与えられた者ほど脳の左下前頭回が活性化
その結果、自分の信念のためなら暴力も厭わないと回答した被験者では、脳の左下前頭回が特に活発になることが明らかになった。
ここは絶対に妥協できないほど重要とみなす思考に関連する領域だ。
決定的だったのは、ゲームで疎外感を与えられた被験者ほど、目的のために命をかけて戦ってもかまわないと回答する傾向にあり、その際の左下前頭回の活動が活発だったことだ。
また、一番最初にした質問において回答者が暴力を正当化できないとみなした事項を再度質問してみると、そうした人たちの脳波は絶対に妥協できない事項について回答しているときと同じような活動を示していた。
すなわち、ほんの短い間コンピューター上で疎外感を受けただけで、それまで暴力を容認できないと感じていたはずの事柄に対して、脳がテロリストのような反応をするようになったということだ。
そうした人が一生を通じて社会から受け入れられなかった場合、どのように感じるのか想像してみてほしい。
・現在のテロ対策の問題点
もちろん、社会的疎外感だけが人を暴力へ駆り立てる唯一の要因ではない。だが、今回の結果からはそれが重要なものであることが窺える。
仮にこの研究が正しいのだとすれば、民族や宗教のマイノリティを排斥するようなあらゆる対策は、いずれ政治的な混乱を悪化させることになるだろう。
テロが生じたとき、それを生み出したコミュニティを責め、その正当性を貶めるという現在よく見られるような対応は、テロ組織の勧誘を手助けしているようなものだということになる。
References:Social Exclusion Leads To Terrorism And We Can See It In People's Brains/ written by hiroching / edited by parumo