貴景勝の活躍、稀勢の里引退には涙…日本列島「おらが街の地元力士」

日刊大衆

貴景勝の活躍、稀勢の里引退には涙…日本列島「おらが街の地元力士」

 人気力士を多数輩出する石川、驚異の力士数を誇る鹿児島……etc。ご当地ネタ満載!(取材・文/武田葉月 ノンフィクションライター)

 江戸の大関より、故郷の三段目。こうした慣用句があるように、人は自分の故郷になじみのある力士を応援してしまうものである。昭和から平成初期にかけて、「相撲王国」として知られる北海道からは、大鵬、北の湖、千代の富士の大横綱が誕生した。ところが平成も後半になると、まさかの関取ゼロという「冬の時代」が続いた。その閉塞感を打破したのが、昨年夏場所、新入幕を果たした旭大星(29)。そして、今年初場所では、アマチュア横綱の称号をひっ提げて入門した矢後(24)も幕内力士に。北海道の巻き返しが始まった。

 今、勢いのあるエリアといえば、東北だろう。初場所の初日に大関・豪栄道、2日目に大関・高安、3日目には横綱・鶴竜を破ってブレイク中の錦木(28)は岩手県の出身。平成に入っての幕内力士は小結・栃乃花(08年引退)以来という、東北でも「相撲不毛の地」だった岩手。地元も相撲熱が高まっている。

 東北地方といえば、「相撲どころ」青森県の存在は相変わらず大きい。昨年九州場所、わずか22歳で初優勝した貴景勝と小学生時代からライバル関係だったのが、阿武咲(22)。地元・三本木農高を中退して、16歳で大相撲の世界に飛び込んだ阿武咲は、18歳で新十両に昇進。驚異のスピード出世を果たし、埼玉栄高3年在学中の18歳で入門した貴景勝を断然リードしていた。ところが先場所、貴景勝は阿武咲に先駆けて優勝をつかみ取る。阿武咲の鼻息は荒い。

 ベテランも健在だ。阿武咲の父親と同い年の安美錦(40)は、十両の土俵で業師ぶりを見せつけていて、手堅い相撲の宝富士(31)も幕内中位で頑張っている。

 秋田県のベテラン力士といえば、豪風(39)。昨夏の甲子園では、母校・金足農高が大活躍! エース・吉田輝星投手(日本ハム入団)の全力ピッチングに、全国のファンが酔いしれた。「感動しました!金農に力をもらいました」とは豪風。初場所は十両で奮闘中だが、ぜひ40歳での幕内力士を目指してほしい。

 20代前半の「次期幕内力士」がしのぎを削っているのが、山形県と福島県。「山形のシロクマ」ことスケールの大きな相撲を取る十両・白鷹山(23)、同じ年齢で福島市出身の十両・小兵の若隆景(23)は、中卒叩き上げ(白鷹山)、東洋大卒(若隆景)とバックグラウンドこそ異なるものの、新十両昇進は昨年夏場所と同期だ。「東北ダービー対決」も毎場所のように組まれ、ライバル関係の2人が今年、どこまで番付を上げていくかも興味深い。

■埼玉栄高相撲部は貴景勝の初優勝で俄然注目

 次に、関東エリアに目を向けてみよう。貴景勝の初優勝で、俄然注目を浴びているのが、埼玉県の埼玉栄高相撲部。現在、幕内に大関・豪栄道、関脇・貴景勝、小結・妙義龍(32)ら6名、十両に英乃海(29)、翔猿(26)兄弟ら4名、幕下には横綱・大鵬の孫で元関脇・貴闘力の三男、納谷(18)、佐渡ヶ嶽親方(元関脇・琴ノ若)の長男、琴鎌谷(20)らのホープがいる。同校は相撲強豪校のため、全国から優秀な選手たちが集まってくる。純粋に埼玉出身力士となると、北勝富士(26)、大栄翔(25)らの名前が挙がる。

 茨城県代表といえば、1月16日に引退を発表した元横綱の稀勢の里(32)。17年初場所の初優勝を受けて、春場所で待望の72代横綱に昇進。ところが、この場所で痛めた左肩、胸の負傷が土俵人生を縮めることになろうとは、誰が予想しただろう。

 進退がかかったこの初場所だったが、初日から3連敗と、本来の相撲が見られないまま4日目に現役引退。奇しくもこの日、地元・牛久市から100名の大応援団が国技館に駆けつける予定だった。その声援を聞くことなく、在位わずか12場所で横綱の座から去った稀勢の里は無念だったろう。地元の後援会会長代理を務める牛久市の根本洋治市長も、テレビの取材に涙しながら言葉を詰まらせた。

 稀勢の里の弟弟子(田子ノ浦部屋)の高安(29)は土浦市の出身。母はフィリピン人で、地元で飲食店を経営している。同じくフィリピン人の母を持つ御嶽海は、高安を兄のように慕っていて、「フィリピンの絆」は深い。また、同郷で元AKBの秋元才加とは幼なじみで一時期、恋の噂も流れたが、今年は発展の予感?

 東京都からは、中野区出身の貴乃花(65代)、若乃花(66代)ら4人の横綱が誕生している。「栃若時代」を牽引し、引退後は長く理事長を務めた小岩出身の横綱・栃錦。JR小岩駅構内には、栃錦の栄誉を称えた銅像がある。

 現在は幕内・千代大龍(30)、十両の英乃海、翔猿らがいるが、彼らはいずれも下町の少年相撲教室、白鳥相撲道場の出身。東京に少年相撲教室は数多いが、力士として大成する者が少ないのは、都会だけに選択肢が多いこともあるのだろう。

■輪島の遠縁に当たる輝

 北陸エリアといえば、以前から「相撲どころ」として知られる石川県が熱い。昨年、54代横綱・輪島大士こと輪島博氏が亡くなったが、輪島氏の遠縁に当たるのが、輝(24)。北陸新幹線「かがやき」ともリンクするこの四股名、下の名前は輪島大士の「大士」を引き継ぎ、輝大士。

 同県穴吹町出身の人気力士といえば、遠藤(28)。その素質は小学生の頃から関係者の耳に届いており、元関脇の貴闘力氏は、「部屋の師匠時代(大嶽部屋)、小学生の遠藤をスカウトしに行った。だけど、すでに別のスカウトの手が回っていた」と言うほどの逸材。地元の強豪校・金沢学院東高(現・金沢学院高)から日大に進学し、アマチュア横綱に輝いての角界入りだった。

 遠藤の高校の後輩・炎鵬(24)は、若手の注目株だ。167センチ、100キロ前後の小兵ながら、ひねり技など、多彩な技でファンを魅了する。父は地元の北国新聞社勤務。金沢学院大からは初の力士誕生で、地元から熱いエールが送られている。

 さて、昨年九州場所、22歳で初優勝を遂げたのが、貴景勝。出身は高級住宅地で有名な兵庫県芦屋市で、引退した稀勢の里とは同じ産院だったという。

 兵庫といえば、埼玉栄高の大先輩でもある妙義龍。日体大時代から玄人受けするシブい相撲で土俵を沸かせてきた。負傷のため、一時は十両に下がっていたが、この初場所は久しぶりに三役に復帰。地元と高校の後輩に、大いに刺激を受けている。

 大阪府出身は、豪栄道、勢(32)、大翔丸(27)ら。交野市にある勢の実家は鮨屋。幼い頃から店でBGMの演歌を聴いて育ったことから、歌の名手に。「NHK福祉大相撲」など歌のステージでは、プロ級のノドを披露。昨秋には、実力派プロゴルファー・比嘉真美子との婚約を発表し、私生活も充実している。

■福岡代表といえば、大関も務めた琴奨菊

 毎年11月に九州場所が行われる福岡県は、力士数も32名と東京(49名)などに次いで4番目に多い。福岡代表といえば、大関も務めた琴奨菊。小学6年生まで過ごした柳川市の実家には、庭に土俵があり、祖父の一男さんが琴奨菊少年に毎日、稽古をつけた。スパルタレッスンで相撲で頭角を現した琴奨菊は、中学から地元を離れ、高知・明徳義塾中学に進学。中学、高校と相撲漬けの毎日を過ごしながら、生徒会会長としても活動。まさに文武両道の生活だった。

 松鳳山(34)は福岡県と大分県の県境、築上郡築上町の出身。高校は大分の宇佐産業高に進み、相撲部で大活躍。その後、駒沢大学を経て、元若嶋津の松ヶ根親方(現・二所ノ関親方)からスカウトされてプロの世界に進んだ。この初場所、松鳳山にうれしいプレゼントがあった。北九州市に本社を置く航空会社「スターフライヤー」から、化粧まわしが贈られたのだ。「カッコいいですね。この年齢になって贈ってもらえて、うれしい。励みになります」と、ニッコリの松鳳山。

 そして、福岡県に次ぐ力士数を誇るのが、鹿児島県だ。スージョに大人気の十両・千代丸(27)、幕下・千代鳳(26)兄弟の地元は志布志市。

 鹿児島からは離島出身力士も多く、昨年九州場所で引退した里山(奄美大島出身、現・佐ノ山親方)、同じく奄美出身の大奄美(26)、瀬戸内町出身で若手注目株の明正(23)、元十両で与論町出身の千代ノ皇(27)らが活躍している。

 離島から、こうした優秀な力士が活躍する理由の一つに、少年相撲教室の充実がある。小学生の頃から、ていねいな指導を受け、相撲を愛する少年たちが、やがては大相撲の世界を支えているのだ。

 おらが町の力士、今年はどんな活躍を見せてくれるだろうか?

■長野県出身 御嶽海「伐採実習の登山で自然に下半身が鍛えられました」

 フィリピンで生まれた僕が、父の地元・長野県上松町に住み始めたのは4歳のとき。それから大学進学前の18歳まで、この地で過ごしました。

 上松町って、すごく環境がいいところなんですよ! 町は360度、木曽駒ヶ岳などの山に囲まれていて、真ん中には木曽川が流れている。駒ヶ岳は実家から車で20分くらいの距離なので、よく家族で行きましたね。

 子どもの頃の思い出といえば、父と一緒に行った渓流釣りです。イワナとかヤマメが面白いように釣れて、それを家に持って帰って、焼いて食べるのが最高! 父も母も料理が得意なので、息子としては幸せな時間でした(笑)。

 あと、近くの山でキノコを採ったり、春にはタラの芽などの山菜も採りに行きました。知ってます? 山でキノコがよく採れるマル秘スポットは、たとえ自分の息子にさえも詳しくは明かさないってことを(笑)。キノコって毎年同じ場所に生える性質があるからなんですが、父は、そういう場所を確実に押さえていましたね。

 地元・木曽清峰高では、森林環境科に在籍していました。1年生のときには、トウモロコシなどの野菜の栽培、2年ではキノコの栽培などの実習をしながら、実際に学校が所有している山に入って木を伐採する、枝打ちの実習もあったんです。実習の日は、鉈やノコギリなどの道具類を腰に巻き、おにぎり、水などを背負って、朝から山を登ります。それで枝打ちを終えて、夕方前に山を下りるという1日仕事。思えば、山道を往復することで、自然に足腰が鍛えられたのかもしれませんね(笑)。本当に楽しい思い出です。

 あと、長野で外せないのは、日本三大美林(天然)の一つ、赤沢美林の木曽檜と木曽路そばでしょう。力士になってからは巡業などで全国各地を回るので、そばも食べ歩いたりしているんですが、東京のそばは上品ですけど、僕にとっては、なんか、もの足りないんですよね(笑)。木曽路そばはなんといってもそば自体の香りの強さが魅力。麺つゆをつけなくても、そば自体がおいしいから、いくらでもイケます!

 今は力士として忙しくさせていただいていて、地元に帰ることができるのは、1年に1、2度くらいなんですけど、そのときは母ちゃんが作った田舎料理を堪能しています(笑)。

■兵庫県出身 貴景勝「女性とデートするなら神戸がオススメ」

 出身地を聞かれて、「兵庫県の芦屋市です」と答えると、決まって、「いいところで生まれたんだね〜」と言われるんですけど、そんなことはなくて(笑)。芦屋にも、いろいろな場所があるんですよ。

 一般的に「関西」というと、「大阪」のようなイメージですが、同じ関西エリアでも、大阪、京都、神戸など、それぞれ雰囲気が違うんです。

 大阪のミナミ、大相撲春場所が開催される難波あたりは人が多くて、ガチャチャ騒がしいけれど、神戸は港があってオシャレ。街も洗練されています。女性とデートするなら断然、神戸がオススメです。ケーキとかのスイーツもおいしいですしね。

 芦屋に住んでいた子どもの頃、両親に連れていってもらって好きだったお店は、「ホテル竹園」にあるレストラン。この店のしゃぶしゃぶは本当においしい! 僕の中では最高のしゃぶしゃぶだと思っています。以前はタイガース戦のときのジャイアンツの選手の定宿だったと聞いていますが、歴史のあるお店なんですよ。

 僕が芦屋にいたのは、15歳まで。高校は埼玉の埼玉栄高に進んで、相撲部で合宿生活を送り、高3、18歳のとき、貴乃花部屋に入門して力士になったので、地元にゆっくり帰るということは、滅多にありません。

 地元のオシャレなお店ですか? デートにも使えるオシャレなお店は、これから研究しておきます。ハイ(笑)。

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