浮気する男の言い訳 (2/4ページ)
もしも、プリッツに心があって、理由を問われたとしたら、私はなんと答えるだろう? なぜ、平気でいろいろな菓子に浮気できるのか? プリッツだけを、ただプリッツだけを毎日食べる。なぜなら、プリッツのことが好きだから。そうした素朴で美しい世界観を、なぜ維持することができないのか?
プリッツは、塩にまみれた体のまま、すっと背筋をのばして、私に言うことだろう。
「あなたは昨日、塩味のプリッツが大好きだ、とおっしゃった。お酒を飲みながら、これが最高なんだ、とおっしゃった。わたしは、うれしかった。自分の塩味を、誇りに思えた。なのに今日、あなたはわたしに見向きもせず、隣のポッキーをお取りになった。わたしは、悲しかった。あの言葉は、嘘だったのですか? その場限りの、でまかせだったのですか? お酒が生み出した、軽薄なひと言だったのですか?」
私の体に、汗がにじむ。その汗は、罪の汗だ。罪が汗となって、分泌している。
「いやあ、それは」
もごもごと口を動かす。柔らかい綿を詰められたかのように、うまく言葉が出てこない。言い訳なのだ。今からはじまるのは、言い訳にすぎない。
「まあ、なんというか、いや、申し訳ないと思うし、自分でも本当にいやなんだけれども、ただ、これは理解してほしいことではあるというか、まあ、たしかに、わかりにくいことだとは自分でも思うんだけれども」
ああ、前置きが長い。罪人は、言葉をはぐらかす。本題に入るのが、怖いのだ。
「説明すると、なんだろうな、うまく言葉にならないけれど、要するに、人間の舌というのはね、わりと飽きやすいというかさ。昨日は、塩味のお菓子を食べて、すると今日は甘いお菓子が食べたくなる、とまあ、そんなふうにできているというかね。舌というのは、まあ、そういうもので、それは舌のないきみには、つまり、プリッツであるきみにはわからないことかもしれないけれど、そうなんだ。舌というのは、まあ、そういうものなんだよ。わからないかもしれないけれど、わかってほしい。僕も苦しいんだよ。しかし、舌はそういうものだから、仕方ない」
「そうやって、すぐ舌のせいにする」
プリッツは短く、それだけ言った。