日本最古の老婆心?天照大神が旅立つ孫に贈った三つの「御神勅」とは

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日本最古の老婆心?天照大神が旅立つ孫に贈った三つの「御神勅」とは

昔から「可愛い子には旅をさせよ」とは言いますが、自分の元から巣立っていく子供や孫を見送るのは、いつの世も辛いものです。

愛情ゆえにあれこれと心配してしまう「老婆心」は神様たちも同じ……そこで今回は日本の神話である『古事記』『日本書紀』より、旅立つ孫を想う祖母のエピソードを紹介したいと思います。

旅立つ孫に「贈る言葉」

今は昔、天上の世界である高天原(たかまがはら)を治めている女神・天照大神(あまてらすおおみかみ)は、地上の世界である葦原中国(あしはらのなかつくに。現:日本の大部分)を治める大国主命(おおくにぬしのみこと)に対して、紆余曲折の末に国を譲らせました。

かつて国譲りの会見が行われた現場・稲佐の浜

(※このエピソードが有名な「国譲り」ですが、その詳細はまた今度)

「さて……譲らせたはいいものの、葦原中国を誰に治めさせようかしら……」

まずは息子の正勝吾勝勝速日天之忍穂耳命(まさかつあかつかちはやひあめのおしほみみのみこと)……長いので略して天忍穂耳命に「あなた、お行きなさい」と言いましたが、彼は「あんな物騒なところに行きたくない」と嫌がります。

以前、派遣しようとした時も同じことを言っていたので「やっぱりね」という感じですが、それなら……と、今度はその天忍穂耳命の息子、天照大神にとって孫(天孫)に当たる天邇岐志国邇岐志天津日高日子番能邇邇芸命(あめにぎしくににぎしあまつひこひこほのににぎのみこと)……これまた長ったらしいので略して邇邇芸命(ににぎのみこと)に「あなた、お行きなさい」と命じたところ、今度は快諾してくれました。

あぁ良かった……とは言うものの、自分で命じておきながら、やっぱり可愛い孫が旅立ってしまうのは心配でなりません。

そこで天照大神は邇邇芸命が葦原中国へと旅立つ(天孫降臨)当日、邇邇芸命に餞(はなむけ)を贈りました。

天壌無窮(てんじょうむきゅう)の御神勅(ごしんちょく)

まず、天照大神は邇邇芸命に草薙剣(くさなぎのつるぎ)を授け、こう言いました。

【意訳】「良いですか。末永く実り豊かな葦原中国は、私の子孫が王(きみ。君主)となって治めるべき場所ですから、皇孫(すめみま)であるあなたが治めなさい。あなたの子孫が終わりのない天と地(天壌)のごとく栄えるよう、よい政治をするのですよ」

原文】「葦原千五百秋之瑞穗國、是吾子孫可王之地也。宜爾皇孫、就而治焉。行矣、寶祚之隆、當與天壤無窮者矣。」

※『日本書紀』巻第二 神代下より。以下同じ

天地の窮まり無きごとく栄えるように。

葦原千五百秋之瑞穂國(あしはらのちいおあきのみずほのくに)とは「葦が生い茂る湿地(稲作に適した豊かな土地)に瑞々しい稲穂が末永く実る豊かな、美しい国」を意味する葦原中国の別名で、天照大神の孫である邇邇芸命が治め、その子孫が永遠に栄えるよう、言霊(ことだま)を贈ったのでした。

これを「天壌無窮(てんじょうむきゅう)の御神勅」と言います。御神勅(ごしんちょく)とは神様の御言葉、特に命令を言います。

宝鏡奉斎の御神勅

次に天照大神は、邇邇芸命に八咫鏡(やたのかがみ)を授けて言いました。

【意訳】「我が孫よ、この鏡を私と思ってお祀りし、折にふれて向き合いなさい。あなたの心を映し出し、求める答えを導いてくれるでしょう」

【原文】「吾兒、視此寶鏡、當猶視吾。可與同床共殿、以爲齋鏡。」

イメージ

鏡は太古の昔から心を映し出す神具として尊重され、現代でも神社の御神体や依り代としてお祀りされているのは、こうした故事によります。

これを「宝鏡奉斎(ほうきょうほうさい)の御神勅」と言いますが、昔から女性が大切な人に鏡を贈るのは、その不思議な力に御加護を願ったからでしょう。

斎庭稲穂の御神勅

最後に天照大神は、身に着けていた八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)を外し、一房の稲穂と共に邇邇芸命へ授けて言います。

【意訳】「高天原の『故郷の味』であるこの稲を大切に育て、あなたの愛する子孫たちに、いつでも、好きなだけ、お腹いっぱい食べさせてあげなさい

【原文】「以吾高天原所御齋庭之穗、亦當御於吾兒。」

これを「斎庭稲穂(ゆにわのいなほ)の御神勅」と言いますが、邇邇芸命が地上に降り立ったあと、大切に大切に育てた稲が、今も私たちの食卓を満たしています。

「日本人ならお米だよね」……よく聞く言葉ですが、そのルーツは神様が下さった一房の稲穂であることを、どうか覚えておいて欲しいと思います。

終わりに

「どうか、お健やかでありますように。どうか、いついつまでも、幸せでありますように」

かくして天照大神は邇邇芸命を送り出したのですが、地上に降り立った邇邇芸命の子孫が現代の皇室であり、日本人の約半分が皇室の末裔と言われています。

狩野探道「天孫降臨」江戸後期

※ちなみにもう約半分は邇邇芸命につき従った天児屋命(あめのこやねのみこと)の末裔である藤原氏と言われています。

邇邇芸命が授けられた「三種の神器」は皇室に代々継承され(草薙剣は壇ノ浦の合戦で紛失。現在は分身)、一房の稲穂は今も豊かに実り続けています。

一杯のご飯はまさに天照大神の深い愛情であり、米の一粒々々に至るまで、彼女の「老婆心」に感謝したいものです。

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