人気ミステリ作家が明かす創作の「型」とスタート地点 (2/3ページ)
もちろん一つの小説が完全に一つの型に収まるわけではなくて、暗号ものでありながらも誘拐ものであったり、フーダニットでありながらアリバイものであったり、いくつかの型の要素が混じっていることもあります。こうした型を踏まえて、じゃあ今回はどんな型なのかをイメージすることが小説を書く最初の手助けになることは多いです。
――言われてみると、確かにミステリにはいくつかの型があるような気がします。米澤:実は、今回の『本と鍵の季節』は当時担当編集だった方に「色々なミステリの型を書いてください」と言われて始めたんです。
江戸川乱歩は『類別トリック集成』という本で、過去に書かれたミステリをタイプごとに分類しています。これはあくまでミステリの辞書的なものなのですが、同じことを小説の形でやってみませんかと言われました。それが今回の作品の元になっています。
――型というと無機質な印象を受けますが、本を読んでみると登場人物が生き生きとしていてそれを感じさせません。米澤:書いているうちに松倉と堀川が面白いから、彼らの先が見たいと編集部の方に言っていただいたので、彼ら二人の物語ということでシリーズにしつつ、当初の案であるいろいろなタイプのミステリも書くというように両立させて書いたつもりです。
第一話の「913」は暗号もので、第二話の「ロックオンロッカー」は「九マイルは遠すぎる」というハリイ・ケメルマンの小説の型になります。第三話はアリバイもの、という感じですね。
――ミステリの「型」についてお聞きしたいのですが、新しい型はもう生まれないのでしょうか?米澤:型については考え尽くされているということがもうずいぶん前から言われていますし、実際新しい型を作るのはすごく難しいことは確かです。ただ、もう絶対新しいものは生まれないかというと、そんなことはないと思っています。
――型とは違いますが、テクノロジーの進歩によって新しい種類のお話が生まれるということはありえそうです。たとえばIoT製品が本格的に普及し始めたなら、自動車の制御システムを外部からハッキングして意図的に事故を起こすとか…。米澤:そういうのはあるかもしれませんね。