人気ミステリ作家が明かす創作の「型」とスタート地点 (3/3ページ)
ただ、最先端の技術なり製品は古びるのも早いので、あんまりすぐに採り入れるのは躊躇してしまうところはあります。今回の本でも「スマホ」というワードは使っていないんです。もしかしたら2年後には新しい製品が誕生していてもう誰もスマホという言葉を使っていないかもしれないので。
それと、最新技術を取り入れてミステリを書いた時、それを読者が理解できるかという問題もありますよね。古いものなので今も有効かわかりませんが、ミステリの約束事に「ノックスの十戒」というのがありまして、その一つに「未発見の毒薬、難解な科学的説明を要する機械を犯行に用いてはならない」とあります。
たとえば殺人事件などでも、未知の毒や未知のテクノロジーを使ったから可能だったのだ、としてしまうと読者がしらけてしまうというわけです。また、読者が自力で謎を解く可能性もありません。
「ノックスの十戒」を「最新技術を使ったミステリ」の話に当てはめることの是非は置いておいて、最新技術を使ってミステリ小説を書くとなると「読者が自力で謎を解くことができる」というミステリ小説としてのフェアネスを確保するのは大変だと思います。
――読者がついてこられなかったら意味がないですからね。米澤:ただ、不可能ということではないです。たとえば「シャーロック・ホームズ」シリーズでは「同じ指紋を持つ人間はいない」という、当時解明されはじめていた事実が取りいれられていたりしますし。
――米澤さんご自身は新しいミステリの可能性について考えることはありますか?米澤:新しい面白さはどうやったら生み出せるのかというのは常に考えています。ただ、テクノロジーについていくという意味ではあまり考えてないですね。
(第三回 ■理想の小説は「知」と「情」が和解するもの につづく)
(第一回 ■『本と鍵の季節』執筆に生きた「実体験」 を読む)