前世の記憶がきっかけで?平安時代のやんごとなき姫君と冴えない衛士の駆け落ちエピソード【一】

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前世の記憶がきっかけで?平安時代のやんごとなき姫君と冴えない衛士の駆け落ちエピソード【一】

皆さんは「前世」を信じますか?

初めてのはずなのに、なぜか見たことがあるような風景や、会ったことがあるような人物など……。

単なる気のせい、記憶違いなのかも知れませんが、もしかしたら、前の人生で体験していたのかも知れません。

今回は、そんな前世の記憶から生まれた、平安時代のとある駆け落ちエピソードを紹介したいと思います。

故郷があまりに恋しくて……

今は昔、朝廷を警護していた一人の衛士(えじ)がおりました。

務めに励む衛士(右端。イメージ)「これ、しゃんとせぬか」「へぃ、すいやせん」どうも身の入らない様子。

この男、決して怠け者ではないのですが、無理やり故郷から連れて来られた上に、地元愛が強すぎることもあって都の暮らしにもなかなか慣れず、日々の務めに身が入らないのも無理からぬところです。

そんな訳で、今日も今日とて東の空を見上げては、

「あぁ……武蔵(むさし※1)に帰りてぇだ……おっ父やおっ母の顔を見てぇだなぁ……」

などとぼやき続け、上官にどつき回される毎日だったそうな。

(※1)現:東京都+埼玉県の旧国名ですが、ここでは衛士の故郷である南東部、江戸湾沿岸地域を指しています。

風に吹かれる瓢のように

さて、そんなある日のこと。例の衛士は相も変わらず、東の空を見上げながらぼやいていると、ふと何か思い出したようです。

「……そう言やぁ、故郷を出てくる前に仕込んでおいた酒はどうなったかな……とっといてくれてあるか、いやぁ呑まれちまったかなぁ……」

なんてことを言っていたら、にわかに喉が渇いてきました。

「あぁ……故郷のおっ母が醸(かも)してくれた酒が呑みてぇだなぁ……吾(おれ)にゃあ都の水がどうしても合わねぇ……」

たまに何かのおこぼれで舌先ばかり湿らせる酒も、何かと世知辛い都の空の下ではどうにも味気なく思えてならないのでした。

「……喉が渇きゃあ、いつでも甕(かめ)に瓢(ひさご※2)をザブザブ突っ込んで、思うさま酒が呑める、そんな気ままな暮らしに早く戻りてぇなぁ……」

ヒョウタン(瓢箪)の実を二つに割って中身をくりぬけば、柄杓代わりに。

(※2)ヒョウタンのこと。ここではその実を二つに割って、柄杓のように用いた食器を指します。

郷愁ますます募る衛士の首筋をふと東風が撫でていくと、衛士はため息を一つつきました。

「風はいいなぁ。いつでも気の向いた方へ吹いて行けるんだから……そう言えば、酒甕に浮かべてあった瓢も、風の吹くまま流れていたなぁ……」

そう言うと、令によっていつものようにぼんやりと空想に耽ります。

「……北風が吹いたら南に流れ、南風が吹いたら北へ漂い……」

とまぁ、そんなとりとめもないことばかり呟いていたら、御殿の奥から衛士に声をかける者がありました。

さて、誰でしょうか。

【続く】

※参考文献:

辻真先・矢代まさこ『コミグラフィック日本の古典15 更科日記』暁教育図書、昭和五十八1983年9月1日 初版
藤岡忠美ら校注 訳『新編日本古典文学全集 和泉式部日記 紫式部日記 更級日記 讃岐典侍日記』小学館、平成六1994年9月20日 第一刷

日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan

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