前世の記憶がきっかけで?平安時代のやんごとなき姫君と冴えない衛士の駆け落ちエピソード【完】 (3/3ページ)
陛下にそうお伝えなさい……『もし心から娘の幸せを願うのであれば、夫の罪を赦してたもれ』とも」
そうまで言われてしまうと、追手たちも乱暴な真似は出来ません。姫宮さまは続けます。
「ここの眺めを、確かに前世で見たのです……ここは妾にとって、京の都よりも心安らぎ、幸せに暮らせる土地なのです」
「ははあ、確かにお伝え致しまする」
京の都へ戻った追手たちは天皇陛下に事の次第を報告すると、天皇陛下は涙を流して仰いました。
「あぁ……姫よ。そなたがそこまで願うのであれば、もはや連れ戻すことは諦めよう。せめて父の愛情として、姫に不自由な暮らしをさせぬよう、かの衛士に武蔵国を与えようぞ……」
かくして天皇陛下は衛士を武蔵の国司に任じて新居を建てさせ、二人はいつまでも仲睦まじく暮らしたそうです。
エピローグ
斎藤月岑『江戸名所図会』より、済海寺。
この時に建てられた新居は二人の死後、竹芝寺(たけしばでら)となり、やがて済海寺(さいかいじ。現:東京都港区三田)と名を変えて今日に至ります。
また、衛士と姫宮さまの間に生まれた子供たちは天皇陛下より「武蔵」という姓を与えられて子孫も栄え、その血脈を今日に受け継いでいます。
前世の記憶が身分違いの二人を結び付けた、平安時代の駆け落ちエピソードでした。
【完】
※参考文献:
辻真先・矢代まさこ『コミグラフィック日本の古典15 更科日記』暁教育図書、昭和五十八1983年9月1日 初版
藤岡忠美ら校注 訳『新編日本古典文学全集 和泉式部日記 紫式部日記 更級日記 讃岐典侍日記』小学館、平成六1994年9月20日 第一刷
日本の文化と「今」をつなぐ - Japaaan