スコットランドで「親が子供を叩くのは全面禁止」の法案が可決される。賛否両論の声
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英国北部のスコットランド議会は、16歳未満の子供たちを大人同様に暴行から保護するため、「親によるどんな体罰も犯罪行為として禁じる」法案を、賛成多数で可決した。
つまり、今後スコットランドでは、親が躾のために子供を叩く“スマッキング(smacking)”と呼ばれる行為が犯罪とみなされることになる。
これにより、スコットランドは英国(グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国)内でこの行為が全面禁止された初のカントリーとなった。
・躾のために親が子供を叩く行為が全面禁止に
これまでのスコットランドの法律では、イングランドやウェールズ、北アイルランド同様、大人に対する全ての身体的攻撃は「暴行」として扱われ、犯罪の対象となっていたが、子供に対しては同様の保護が法的に認められていなかった。
そのため、親やそれに代わる保護者らは、“合理的な”物理的力を使い、子供を躾けることが許可されてきた。
しかし、10月3日にエディンバラのホリールードにて、子供へのスマッキング(smacking)を全面禁止にする法案が可決された。
スマッキングとは平手打ちのことで、相手を叩く際に用いられる言葉だ。
親が、子供への躾としてお尻や頭、足など体の一部をピシャリと叩く行為が、今後スコットランドでは犯罪とみなされ、親は躾として子供を叩いても犯罪者になり得るということだ。
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・世論調査では多数が「法律の変更」に反対の声
親が16歳未満の子供へのスマッキングを全面禁止という法律への変更は、もともとスコットランドのグリーン党所属で元警察官のジョン・フィニー議員により提案されていた。
早い段階で、フィニー議はグリーン党、スコットランド国民党、労働党、自由民主党という多党の支持を得ており、子供の権利を守る活動を行っている慈善団体のサポートも獲得していた。唯一、法案に反対したのは保守党だったという。
では一般の人々はどう考えていたのだろう?
去年英メディアが行った世論調査では、英国の64%が“不当な”スマッキングは犯罪であると考えていることを明らかにしていたものの、今回行われた世論調査では、議会の賛成派に反して多くの人が法の変更に「今のままで十分」と反対を唱えていることがわかった。
更に、世論調査では反対派が「子供に躾をした分別のある数千人の“善良な”親を、犯罪者にするリスクがある」と懸念。
保守党オリバー・マンデル議員は次のように話している。
子供に対する暴力は間違っていると思う。ただし、それは今に始まった問題ではない。躾のために叩いた両親が、刑事司法制度に巻き込まれる状況を予測することは不可能だ。
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・両親が犯罪者になってしまうことの悪影響
法の変更に反対するキャンペーンは、Be Reasonable Scotlandというグループによって主導されており、彼らはこの法が善意よりも害をもたらす可能性があると主張している。
深刻な身体的虐待の被害者である脆弱な子供たちを助けることにもちろん異存はない。だが、不必要な法の変更は、一般的な家族にトラウマ的介入を引き起こすことになり、法を変えるよりも、真の虐待を特定して対処する能力を向上させるために、ソーシャルワークやその他のサービスに投資すべきだと、グループは政府に促していた。
これまでは、親が懲罰の形として身体的力を使用して子供の暴行で告発された場合、「合理的な懲罰」もしくは「正当な暴行」の弁護を請求できた。
懲罰が合理的であったか否かを判断する際には、もちろん裁判所は罰の性質やその期間と頻度、子供の年齢、身体的および精神的両方の影響などの要因を考慮する。
これは、実際には一般的に親が子供の体を叩くことを許可していることを意味するが、子供の頭を何かにぶつけたり揺らしたり、道具を用いることは違法とされている他、学校やその他の教育現場での全ての体罰は、既に完全に禁止されている。
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・調査では英国の親の70%~80%が体罰を使用
2015年にスコットランドの子供たちを保護する慈善団体が発行した報告書によると、子供への体罰は米国、カナダ、イタリア、ドイツ、スウェーデンなどの類似国よりも、英国が一般的であることがわかったという。
調査では、英国の両親の70%~80%が体罰を使用しており、3歳~7歳の子供への虐待の可能性が最も高いと推定されている。
また、多くの親が子供を叩くことを“良いこと”とは思っていないが、時にはそれが“うまくいく唯一の方法”と信じていることも調査で判明している。
子供のスマッキングに対する調査では、それが子供を傷つけ、動揺させるだけでなく、悪い行動を常に止めるとは限らないことが示唆されている。
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・暴力はいかなる状況でも認められるべきではない
世論で多くの反対を受けたにも関わらず、議会での支持が多数であったことから可決となったこの法案。フィニー氏は、喜びを次のように語った。
国内で、最も幼く、最もか弱い市民である子供たちが、暴力という攻撃から完全に保護されていないことは、実に驚くべきことです。
21世紀のスコットランドには、体罰はもう存在しません。体罰は、子供たちに深刻な影響を与える可能性があり、効果的ではありません。
体罰は、子供にダメージを与え効果的な躾ではなく、身体的虐待にエスカレートする可能性もあります。
今回、スコットランド議会がこの歴史的で勇気ある一歩を踏み出したことをとても嬉しく思います。子供は、少なくとも、大人と同じ法的保護を受けるに値します。
法案が可決されたことは、暴力はいかなる状況でも、決して容認されるべきではないという強いメッセージを社会へ送ることになります。
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・ウェールズもこの法律の導入を検討中
スコットランドでは、法案が可決されても賛否両論が相次いでいるが、同政府の子供大臣マリー・トッド氏は、「子供を愛する両親なら、犯罪者にはならない」と主張している。
去年イングランドでは、教育心理学協会が「叩くことは子供の精神的健康に有害であり、禁止されるべき」と強調していたが、英国内ではウェールズがこれに続いて同様の法案を検討中であり、イングランドや北アイルランドでは追随する計画は今のところはないという。
しかし、イングランドとウェールズでは、親が子供を激しく叩いて痕を残したり、あざや腫れ、切り傷やひっかき傷を負ったりした場合は、刑事告発に直面する可能性は現在もある。
なおヨーロッパ諸国では、スウェーデンが1979年に体罰を非合法化したことで、世界で最初の家庭におけるスマッキングを禁止した国だが、スコットランドは禁止法においては58番目となった。
References:Daily Starなど / written by Scarlet / edited by parumo