年末年始に読み漁りたい傑作「時代小説」5冊(2)楽土を夢見た武将の生涯 (1/2ページ)

Asagei Biz

小説
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 江戸のお仕事がわかる作品をもう一本。

 西條奈加「せき越えぬ」(新潮社)の主人公は、小田原藩十一万三千石、大久保家の家臣・武藤一之介(たけとういちのすけ)。通称・武一(たけいち)は、関所に潜む不正を暴いたことがきっかけで、仲間たちと箱根で働くことになる。

 関所は忙しい。逃亡犯、泣いて逃げ出す女、相撲取り、陣痛を起こす妊婦など、関所で起こるさまざまな事件をチームで解決する武一。やがて友や片思いの女の秘密を知ることになる。

 いい味を出すのが、周囲のおやじたちだ。武一の父は出世に縁のない呑気者で、四十代の若さで隠居し、碁や謡(うたい)、釣りに野歩きと趣味三昧の日々を送る。凡庸な人物に見えるが、実はかなりのくせ者。武一が10歳の時には、上役に対して自分なりの筋を通し、失業の危機だったこともある。「本当に強いのは、負けない者ではなく、何度でも立ち上がることができる者」という父の言葉が胸に残る。

 仕事の現場では「氷目付」と呼ばれるほどに冷徹だが、実は別の顔も持つ関所の上役、剣の道においては身分も育ちも関係なしと武一たち弟子を育ててくれた剣の恩師、おやじたちの教えは、武一たちを成長させる。

 同僚との信頼関係や先輩たちのアドバイスを活かしながら職業人として生きていく。これは現代の職場とまったく同じ。こんな先輩もいたなあと思い出しながら読める。さわやかな作品。

 木下昌輝のデビュー作「宇喜多(うきた)の捨て嫁」(文藝春秋)には度肝を抜かれた。戦国乱世、実の娘を嫁がせた相手を攻め滅ぼすという恐ろしい謀略をしてのける備前の武将・宇喜多直家(うきたなおいえ)。

「梟雄(きょうゆう)」と陰口を言われた直家の生きざま、奇病を得て全身から血膿(ちうみ)が出る呪わしい姿、さらに心中深く刻んだ決意には震えがきた。

「宇喜多の楽土」(文藝春秋)は、直家の跡取りである宇喜多秀家(ひでいえ)の物語。「捨て嫁」に続き、直木賞候補となった。

 少年時代、秀家は「流民たちを救いたい」と出家を望むような性格だった。しかし、老いた父の直家に干拓地を案内されて、事業を引き継ぐ決心をする。この優しさと生真面目さは物語のカギだ。

 やがて起こる本能寺の変。

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