野村克也が選んだ「プロ野球史上最強ベストナイン」

キラ星の如きスターたちが量産される球界だが、そこから真のスターを厳選したら!? 名将がこの難題に答えた!!
球界では、来シーズンの助っ人外国人選手の補強が真っ盛り。各球団とも、注目の選手の入団を続々と発表している。「目玉は2選手。セ・リーグ連覇を目指す巨人は、今年、韓国リーグで17勝を挙げた右腕、アンヘル・サンチェスを獲得。年間を通じて被本塁打数が“2”というのも魅力で、山口俊の抜けた穴を補うことができるか、注目ですね。パ・リーグでは、5季連続でBクラスに低迷するオリックスに注目です。ダイヤモンドバックスからFAで、アダム・ジョーンズ外野手を獲得しました。メジャーで、11年連続2ケタ本塁打という右の大砲です」(スポーツ紙デスク)
補強戦線は年が明けても続くため今後も要注目だが、毎年、ペナントを戦うスタメンの陣容を考えるのに知恵を絞るのが監督だ。そこで、今回のテーマ。監督通算24年で1565勝を挙げ、ペナント優勝5回、3度の日本一に輝いた野村克也氏が、歴代選手の中から“史上最強ベストナイン”を選んだら? 野球を知り尽くした名将の布陣はどうなるのか?
野村氏は今年、ベストメンバーを2度披露している。1回目は本誌誌上にて(2月19日号)。もう1回は、4月に放送されたテレビ番組『S☆1』(TBS系)内だった(本誌では「歴代ベストナイン」をあげてもらったが、『S☆1』で発表されたのは「平成ベストナイン」)。「野村さんのベストナインは毎回、微妙に変わるんですが(笑)、絶対に外さない選手も多い。要は、いつも選ばれている選手が、本当のベストナインなんでしょうね」(前出のデスク)
■「平成ベストナイン」は!
それでは、まず、『S☆1』内で野村氏が披露した「平成ベストナイン」から見てみよう。先発投手には、ダルビッシュ有が選ばれた。「ノムさんは“ストレートの速い本格派であると同時に、変化球も抜群の技巧派”とベタボメです。プロ入り当初は、喫煙写真報道などもあり、あまり評価していなかったんですがね(笑)」(野村氏を知る球界関係者)
近著の『プロ野球怪物伝』(幻冬舎)では、〈チームの危機を救ってくれる〉〈選手の見本になれる存在〉とし、ダルが“エースの条件”を備えているとしている。
中継ぎは、野村氏が阪神の監督時代、巨人の松井秀喜を封じるために起用した左腕、遠山奨志を選出。「ノムさんは“松井封じ”のため、遠山にサイドスロー転向とシュートを覚えるように厳命しました。シュートで松井をのけ反らせておいてから、外角に逃げるスライダーで打ち取る作戦でした。これが見事にハマり、1999年シーズンは、遠山は松井をノーヒットに抑えましたからね。さすがノムさんですよ」(前同)
抑えは“ハマの大魔神”こと佐々木主浩。佐々木といえば、破壊力抜群のフォークが武器だったが、この魔球の秘密を野村氏は見抜いていた。〈まっすぐ落とすだけでなく、スライダー系のフォークとシュート系のフォークを自在に投げ分け、さらに高速系とチェンジアップ系を使い分けた〉(前掲書) なんと、佐々木は5種類以上のフォークを投げ分けていたというのだ。
■ 原辰徳や古田敦也、落合博満も
捕手は“愛弟子”の古田敦也を選んでいるが、これは納得。野村氏の代名詞でもあるID野球を継承した古田。野村氏は、「(古田には)打者の攻略を教えていたら、それをバッティングに生かして、打つほうもよくなった」と、至極ご満悦。
同じ“野村門下”では、遊撃手の宮本慎也も選ばれている。「ノムさんは宮本の勉強熱心さを買っていました。“あいつは、どんなことでも細かく聞きに来るわ”と、うれしそうでしたからね」(前出の関係者)
一塁手には孤高の“オレ流”落合博満をあげている。三冠王を3度獲っていることから、〈これは王にもできなかったことで、日本プロ野球史上ただひとり。
「最高の右バッターは誰か」と問われればやはり、落合の名前をあげる〉(前掲書)と文句なしのようだ。面白いのは、〈落合のおじいさんは鉄砲の名人だったという。その血を引いているのか、彼のバッティングは狩猟型という感じがする〉(前同)との分析か。
二塁手は西武の黄金時代を支えた辻発彦を選出。いぶし銀のプレーが光るツウ好みの選手だ。(抑え)遠山奬志(中継ぎ)三塁手は、意外や現・巨人監督の原辰徳をあげている。
番組の中で野村氏は、「原は長嶋の影響を多分に受けとるな。長嶋に似てるわ。あまり好きじゃないけど(笑)、選ばないとしかたないんじゃないか……」と、選出理由を述べた。
■松井秀喜やイチローはすごい!
外野手は松井秀喜、柳田悠岐、イチローを選出。「野村さんが監督時代、松井の攻略法をスコアラーに調べさせたところ、“対策なし”と報告がきたそうです。そこで、“ヒットはしかたない。ホームランを封じる”という方針で、松井に臨んだとか」(前出のデスク)
柳田に関しては、前掲書の中で、〈見たこともない変なフォーム〉と指摘し、〈王やソフトバンクの指導陣はよく我慢している〉と、一見すると批判的だ。
「ただ、独特の“あおり打ち”は柳田だからできる芸当。だから“怪物”なんだと、戸惑いながらも、評価していますね」(前同)
イチローに関してはベタボメで、〈なぜ、イチローは怪物的な記録を残すことができたのか。ひとことでいえば、天才だからである〉(前掲書)と断言。
イチローは配球を読んだり、狙い球を絞ったりせず、〈来た球に反応している〉(前同)と分析、〈私のような凡才は、配球を読み、狙い球を絞るのである〉(同)と謙遜してみせている。
■王貞治、長嶋茂雄…「史上最強ベストナイン」
以上が、野村氏による「平成ベストナイン」だが、続いて、本誌で選出してくれた「史上最強ベストナイン」を発表しよう。平成ベストナインにもエントリーされている選手は、重複するので割愛する。
史上最強メンバーの先発は“400勝投手”金田正一(故人)。170キロは出ていたとの証言もあるストレートはもちろんなのだが、野村氏は〈それ以上にカーブがすごかった〉(前掲書)と述懐する。抜群のスタミナも持ち合わせており、ダブルヘッダーが組まれることが多かった昭和30年代前半は、1日に2勝を挙げるなど常人離れした活躍を見せた。
女房役の捕手には、謙遜しながらも野村克也本人を選んだ。「監督としてのイメージが強いですが、三冠王2回、歴代本塁打数2位など、打者としても超一流です。しかも、緻密な野球を実践する頭脳もある。謙遜する必要などなく、史上最強ベストナインの捕手は野村さんしかいないでしょうね」(デスク)
二塁手には高木守道、遊撃手に吉田義男を選出。「高木さんは巧打に加え、“アウト寄与率”の指標で歴代トップの名手。吉田さんは、捕球と同時に投げる神業から、当時“牛若丸”と呼ばれましたよね。打撃は粘るので勝負強く、実は、あの金田さんが一番苦手にしていたのが吉田さんでした」(球界OB)
外野では、中堅に福本豊が選ばれた。「ノムさんは、盗塁王13回、通算2543安打の福本さんのすごさは、“目”だと言っていました。盗塁に一番必要なものは俊足ではなく、“投手の癖を見抜くことができる目”なんだと」(球界関係者)
史上最強ベストナイン、残すところは一、三塁手となったが、これは言わずもがなかもしれない。一塁手には王貞治、三塁手には長嶋茂雄を選出。〈ONを超える怪物はいなかったし、これからも現れることはないだろう〉(前掲書)と、最大限の賛辞を贈り、“不動のON”を迷わず選出している。ONのすごさは、数字だけではなく、触発されたライバルたちが切磋琢磨することで、プロ野球の人気が築かれたと分析している。〈こうしたONとライバルたちの力の限りを尽くした戦いが幾多の名勝負とドラマを生み、人々を魅了することになった。そう考えていくと、長嶋の巨人入りは「野球の神様」の思し召しだったのかもしれない〉(『私のプロ野球80年史』小学館)
「ノムさんが、ONに劣等感を抱えていたのは事実です。63年に年間本塁打52本の記録を作ったら、翌年、王さんに55本で記録を塗り替えられたし(笑)。記録では長嶋さんより上なのに、やはりファンは“ミスター、ミスター”と言う。結局、ONのすごさを一番理解し、一番敵愾心を燃やしたのがノムさんだったんでしょうね」(前出のOB)
来シーズンは、どんなスターが登場するのだろうか。(文中一部=敬称略)